【連載】医療Ai(死亡時画像診断)について
このコラムでは、医療Ai(死亡画像診断)をテーマに、皆さんに分かりやすように、尚且つ専門性を維持しながらお伝えしていきたいと思います。
Aiについて現状と課題、将来への展望を把握できるように、Aiを推進していくことで、社会に貢献できればと思います。
皆さまは「Ai」と聞くとIT・テクノロジーのイメージを多くの方がお持ちになると思います。
医療現場では、Aiとは死亡画像診断のことを言います。
連載シリーズ第1回目はこの「Aiとは?」について少し深く解説していきたいと思います。
Aiとは?
皆さんは、親族や知り合いが亡くなったとき、その正確な死因を知りたくないですか?
私の父は 6年前に肺がんを患い、闘病後に脳出血でなくなりました。心肺停止したときにCT検査まではしませんでしたが、病気の経過からそのように推測するのが妥当であろうと主治医が判断し、遺族はその診断を受け入れました。
肺がんが脳へ転移し、脳出血を合併するのは起こりえることであり、医師の私も納得しています。
しかし、この脳出血という死因は不確かであり、推測でしかありません。本当は脳出血でなく、梗塞であったかもしれませんし、くも膜下出血かもしれません。
本人はすでに亡くなっているので、正確な死因究明までは求めませんでした。ただ、不確かな死因が死亡診断書に記載され、父の最後の記録となることに違和感を感じた記憶があります。
このような曖昧な死亡診断は、実は多くの医療現場で普通に行われていることなのです。
誰がみても明らかな死因とは、交通事故、転落、焼死、溺死、縊頚(いけい)などがあります。
一方で、くも膜下出血、心筋梗塞、大動脈解離などの病死は外見では判断つかず、死因を特定するのは困難です。これらの多くは内因死と呼ばれ、体内に死因が存在する状況です。
内因死の死因を特定するためには、遺体を解剖をしなければなりません。解剖とは遺体の体内の状況をつぶさに観察して死因を特定する方法です。
些細な死因も特定することができ、死因究明において、最も確実な方法です。
しかしこの解剖を行うには、施設、専門職、解剖時間、検査コスト、親族の同意などが制約となり、容易に行うことができない状況です。
解剖までは行わずに体表の観察(検案)のみで死亡診断されている状況です。
解剖は遺体を損壊する必要があるので、遺族にとって決して優しい方法ではなく、必ずしも望まれないということもあります。
日本では、全死亡者の2%しか解剖が行われていないといわれており、1年間に亡くなる100万人以上の人の多くは正確な死因が不明なのです。
オートプシーイメージング(autopsy imaging:Ai,、小文字の“i”)は、死亡時画像診断とも呼ばれ、
死亡時の遺体に対して非侵襲的な画像検査を行うことです。
これにより、死因を究明できたり、解剖を補うような情報が得られることがあります。
2012年に『死因究明等の推進に関する法律』が成立しました。
この法律の目的は、「死因究明」および「身元確認」の実施体制を充実、強化していくことです。第6条に『死亡時画像診断』という用語が法律の条文に初めて記載されました。
CTやMRIなどの画像診断装置を用いて、死亡の原因を究明することが公的に認められたのです。
2020年には、死因究明等推進基本法が制定されました。死因究明、身元確認に関する施策を推進し、安全で安心して暮らせる社会と個人の尊厳が保持される社会の実現に寄与することを目的としています。
近年、日本ではAiの普及が進んでいます。
解剖に対する遺族の抵抗感や、文化的・宗教的理由から解剖が受け入れられないケースなどがあることも背景にあります。
Aiは、遺体を損壊せずに死因や病変を調べることができるため、遺族の心情に配慮しながら適切な情報を提供することができます。
Aiは、死因究明や遺族への配慮といった点で大きなメリットがありますが、一方でその限界も認識されています。
例えば、細胞レベルの変化や微細な組織損傷は、Aiだけでは確認できないことがあります。感染症、薬物、毒物による死亡の場合、画像診断では原因の特定が困難です。Aiと解剖は、補完的な関係にあると考えられるのです。
連載第1回目では、死亡究明における現状の医療現場だけでなくご遺族の心情も配慮した上での課題感も含めて解説させていただきました。
次回は、Aiで利用する画像診断技術について触れていきたいと思います。