【連載】被爆(ひばく)についての考え方 Vol.3「被曝と妊娠について」
こんにちは、放射線技師として活動している高石です。
放射線シリーズでお届けしているコラム記事。
今回はよく質問をいただく1つですが、「被曝が妊娠に及ぼす影響」について詳しくご紹介したいと思います。
被曝が妊娠に及ぼす影響
被曝が妊娠に及ぼす影響は、生殖腺※に放射線を受けると影響します。
生殖腺に放射線があたると、被曝した放射線の量によっては、一時的不妊や永久不妊になる場合があります。
妊娠前の放射線被ばくによる影響は、確定的影響になります。
通常の医療における放射線検査では不妊のしきい値を超えて生殖腺が被曝することはありません。
また、頭や胸部など骨盤部(生殖腺)が検査範囲内に入っていない場合はその影響は考えなくてよいほど少なくなります。
※生殖腺:動物の生殖細胞である卵らんや精子をつくる 器官のこと
男性の場合、一時的に不妊になる放射線被曝しきい値は約100mGyと言われています。100mGy以上の被曝で精子が減少し、一時不妊になります。
これは一時的なもので2~3か月すれば元に戻ると言われています。高線量(3500mGy以上)の被曝をした場合は永久不妊になる可能性が高くなります。
女性の場合、一時不妊のしきい値は650mGyで、永久不妊は2500mGyと言われています。
通常の医療における放射線検査では100mGy以下ですので、通常の医療における放射線検査による被曝が妊娠に及ぼす影響はありません。
妊娠前の被曝による胎児への影響について
広島・長崎の被爆者の遺伝的影響を長年にわたり調査した結果から、被曝2世において遺伝的障害の発生頻度に優位な増加は認められないという結果があります。
また、国際放射線防護委員会(ICRP)では、通常の放射線検査は、遺伝的疾患の自然発生頻度に比べると、遺伝的な疾患の過剰誘発リスクは相対的に小さいと発表しています。
つまり、妊娠前に生殖腺が被曝することで胎児への影響はことはありません。
妊娠中の被曝による胎児への影響
胎児の確定的影響
妊娠中に放射線を受けると胎児にどんな影響が出るのでしょうか?
妊娠中に放射線を受けたことで胎児にあらわれる影響を以下に示します。
放射線被ばくによる胎児への影響は、その時期により現れる影響が大きく異なります。
胎児の放射線確定的影響のしきい値は、いずれも100mGy以上です。
通常の医療における放射線検査では100mGy以下ですので胎児が、しきい線量を超える放射線被曝を受けることはありませんので、通常の医療における放射線検査による被曝が胎児へおよぼす影響は心配する必要はありません。
胎児の確立的影響
確率的影響にはしきい値がないと仮定されています。
通常の医療における放射線検査では100mGy以下で、胎児の確率的影響を考えなくてよいぐらい少なく設定されています。
胎児の被曝線量が5mGyで0%、10mGyで0.1%、50mGyで0.3%、100mGyで0.5%小児がんの発生する確率が増加すると言われています。
必要な放射線検査以外はできるだけ受けないようにして、妊娠の可能性がある場合は主治医に伝え、相談しながら検査を受けることをお勧めします。
いかがでしたでしょうか?
通常の医療における放射線検査にて被曝しても、100mGy以下の低線量域ですので、不妊になる心配や胎児への影響はほぼありませんが、妊娠後の胎児の確率的影響をみると将来に小児がんの発生確率がわずかに増加すると言われています。
通常の放射線検査を受けてもその影響は、100mGyで0.5%増加とごくわずかです。
しかしわずかながら増加するのも統計的結果として出ています。妊娠後はできるだけ胎児が被曝しないように主治医と相談し、検査を受けられたらいいと思います。
次回は小児と放射線の影響についてご紹介したいと思います。