磁気共鳴医学会 〜MRI検査の安全管理〜

ラジエーションジャーナル編集部の林です。
第51回日本磁気共鳴医学会大会最終テーマは、「MRI検査の安全管理」についてご紹介します。

毎年、MRI検査における安全管理の話については、大規模なシンポジウムセッションとして取り上げられており、国内外で実際にあったインシデントやアクシデントの事例を事細かく紹介しています。

毎度受講後は身が引き締まりますが、その中で、いくつかの事例報告についてご紹介したいと思います。

ヘッドフォンの不装着・エマージェンシーボールの手渡し忘れ

経験豊富なMRI検査技師が、MRI検査開始直前のポジショニングの際に騒音防止の為のヘッドフォンの装着と検査中の異常を知らせるエマージェンシーボールの手渡しを忘れるというアクシデントが発生しました。

被験者は何度もMRI検査の経験があり、異変も感じてはいたものの撮影技師へ通達手段ないため最後まで我慢するというあってはならない事故が発生してしまったようです。

もちろん検査終了時技師の不備について訴訟問題となりました。

このように経験豊富でもうっかりミスが時には起こってしますのです。

このアクシデントに対する対策として、検査フローにポジショニング時に被験者へ必ずエマージェンシーボールとヘッドフォンを渡すことを徹底すること。

実際にその場でエマージェンシーボールを握らせて音がなるかを確認したりヘッドフォン装着を目視で確認する必要があります。

図.1 ヘッドフォンとエマージェンシーボール

MRI検査専用でない車椅子の持ち込み

担当技師が、MRI検査終了後に寝台テーブルをガントリーから手前まで引き出したタイミングに電話がなったため、その場を離れた際に、患者さんを迎えにきた新人看護師が、通常のMRI専用でない車いすをMRI検査室に持ち込んだという事例が発生したようです。


原因としては、担当技師が病棟の新人看護師にMRI安全管理に関する教育が未受講であることを予測できなかったなどが考えられます。

過去の手術歴の確認不足

40歳代女性患者が、検査前に、幼少期(約25年前)に手術した胆嚢ペッツが体内にあると申し出たところ担当技師が大丈夫だと説明し、MRI検査を実施。

検査終了後から腹痛が発生し、腹部CTを撮影したところ、ペッツが外れ腹腔内に脱落していた。

近年、手術で用いられる胆嚢ペッツはMRI検査を撮影しても問題ないが、30年以上前の製品に対しては安全性が確立されていない。

末梢神経の刺激:担当者の知識不足

金属類が一切ない着衣で腰椎のMRI検査を受けた患者が、開始5分で鎖骨より下の上半身に違和感を感じたという事例です。

また閉じていた目が勝手にピクっと開いてしまう現象や両指が数回ピクッと勝手に動いてしまう現象などが発生し、その後も胸元にジリジリしたような違和感が継続したため我慢ができなくなりエマージェンシーボールを押して検査を中断したという事例です。

担当技師が入れ水を確認したがないため検査中の熱感についても説明し検査を続行したが、再度同様の症状が発生したということでした。

検査終了時、担当技師から閉所恐怖症の原因も伝えられたようだが患者本人は納得できなかったという。

これらの現象は明らかに傾斜磁場の変動における末梢神経の刺激が原因である為、担当技師の知識不足が招いたアクシデントだ。

装置に鉄粉が付着

担当技師がMRI装置のガントリー下部に黒い粉末が付着しているのを発見した。

何が付着しているかを調査したところ、MRI対応の非磁性体ストレッチャーの寝台を上下させるハンドルに繋がる螺旋状ネジ部分が経年劣化で摩耗したことにより鉄粉が発生してしまったのだ。

発表で公表されたストレッチャーの画像と当院の画像を確認したところ同様の器具を使用していることもあるので、今後注意することではとてもありがたい事例の一つであった。

図.2 MRI対応の非磁性体ストレッチャー

MRI検査室で拳銃暴発死亡事故

2023年1月とまだ最近の話ではあるが、ブラジルのとある施設で、40代男性が拳銃を所持したまま母親のMRI検査に付き添うために検査室へ入室した。

母親との会話をするためガントリーへ近づいたところ拳銃が磁気に引っ張られてしまいガントリーへ衝突、そのはずみにより拳銃が発砲、男性の腹部へ命中してしまうという大惨事が発生した。

3週間後男性は亡くなり、生前の検査前彼は、MRI検査入室前の事前説明を受けおり、本来であれば金属物の持ち込みができないことは知っているにもかかわらずなんらかの原因で所持したまま入室してしまったようだ。

当院でも積極的に金属物の持ち込み検査は金属探知機などで入念に確認をしているが、このように海外では、拳銃などを所持可能な国も稀にあり、人の命にも関わる事例を傍聴し、改めて大切なことであると感じました。

いかがでしたでょうか?

MRI検査の安全管理については、一つ間違うと命に関わる重大な事故に繋がります。

どの施設でも十分気をつけて業務に取り組んでいると思いますが、それでもこのような事故が毎年発生しているのが現状です。

今後も担当スタッフが定期的に安全管理の研修を受講するなどの努力が必要だと考えます。


この記事が皆さんの提供する検査に役立つことを祈っております。


今後も学会や研究会などの有益な情報を随時ご紹介したいと思いますので、お楽しみに。