ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト 第1弾ー胸写反転事例ー
放射線技師の高石です。
第7回ウェブラジエーション勉強会へご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
今回は、勉強会の内容をダイジェスト版としてご紹介していきたいと思います。
第1弾は「胸写反転事例」についてご紹介します。
放射線技師の皆様は、もしかしたら、日頃の業務で遭遇するかもしれない症例と思います。
ぜひ最後までご覧ください。
症例
90歳 女性
ショートステイで食事中にむせて誤嚥をされた方です。
その後かかりつけのクリニックに受診し採血にてCRP8.21、BNP13200、Div+抗生剤DIVが施行されました。
翌朝まで自宅で様子をみていたが倦怠感が強く、食事も入らないため同日当院へ受診。
その後入院となった患者さんです。
胸腹部CT検査で陳旧性胸膜炎/気管支炎疑い・心不全疑いと診断。
心エコー検査で大動脈弁は三尖弁ともに石灰化・可動性の低下が著明であり、左室壁運動は良好。
入院中のフォローアップにて、胸部一般撮影検査を施行した画像が下の読影画像になります。
ベッドに寝ている状態で撮影室に来られ、座位(座っている状態)にて撮影した胸部X線画像になります。
なにか病変や異常を指摘できますでしょうか?
これは
実は、左右反転した胸部レントゲン画像になります。
本来なら右の画像が正しい画像になります。
心肥大しているので心臓の位置がわかりにくくなっていますが、慎重に観察すると、心臓の形状や大動脈弓部の位置、ペースメーカーリード線の位置などから反転しているように見えます。(※右胸心、内臓逆位に注意!)
これは胸部単純X線写真反転事例になります。
画像を確認するのを怠り、誤った画像処理をしたままサーバーに送ってしまった結果、主治医から「反転していないですか?」と指摘のあった事例になります。
患者さんは、CT検査なども撮影しており、ペースメーカーの位置や内臓逆位などがないことがわかっていたので、反転した画像と気づくことができました。
ではなぜこのような現象が起きたのでしょうか?
撮影オーダーは、クリニカルパス※でオーダーされており、胸部正面立位(PA)撮影でオーダーがありました。
※治療や検査にあたってどのような処置を行うか、その実施内容や順序を入力したスケジュール表のこと
この方は、ベッドで来室されており、自力で立てない方でした。
ベッドの上で座位になり、PA(後ろ(posterior)から前(anterior)に向かって 照射する)設定のまま、AP(前(anterior) から後ろ(posterior)に向かって照射する)で撮影し、後で画像処理を行う予定でしたが、画像処理するのを忘れ、そのままサーバーに転送してしまいこのような現象が起きました。
同様に1歳男児の症例です。
上唇小帯短縮症・口唇小帯形成術の術前胸写の画像が下の読影画像です。
心臓の形状や大動脈弓部の位置が、反転していることがわかります。
術前胸部X線写真のオーダーで、撮影条件は立位PAとなっていました。
1歳男児で、立位PAで撮影が困難であったため臥位のAPで撮影を行いましたが、APをPAの条件の変更を行っておらずこのような事例が起きました。
3種類の胸写
胸部正面一般撮影には、
・立位
・座位
・臥位
3つの体位で撮影する機会があると思います。
立位の場合はPA方向で撮影することが多いのですが、座位や臥位になるとAP方向で撮影することになります。
撮影する側は、患者の状態にあわせて
立位可能の場合 → PA(後前)方向
立位不可の場合・座位もしくは臥位の場合 → AP(前後)方向
上記のように対応しなければなりません。
当院での胸部撮影のメニューの一覧です。。
胸部撮影だけでもこれだけメニューがあります。
撮影する前に、必ず患者の状態と照らし合わせて可能な撮影条件を選択し、条件を整えて撮影することが大事だと感じた症例です。
自動表示
今回の事例は、コンソール上にデータがなかったので、実際にどのように撮影されていたか不明でした。
幸いにも、この患者さんは、CT検査なども撮影しており、心臓逆位などがないことがわかっていたので反転した画像と気づくことができましたが、初回の撮影の場合は、比較するものがなく、本当に反転画像なのかどうか(内臓逆位や右胸心など)判断に困ります。
ミスがないことが一番なのですが、人間は失敗をするものです。
今回の事例のようにまた同じような事例があったとしても、AP条件で撮影したのか、PA条件で撮影したのか判断がつくように以下のような対応を行いました。
PA方向での撮影の場合は、画面右上に”Reverse”マーク(赤矢印)を自動で表示するようにしました。
このマークは、PA方向撮影の場合のみ表示されるようにすることで、撮影した後にPAのメニューで撮影したのか、APのメニューで撮影したのかを判断する基準となりました。
discussion
画像検査オーダーのやり方やオーダーを入れる人は、病院ごとに違いがあると思いますが、本来なら、オーダーをする主治医が患者状態を把握し、それに合わせた撮影をオーダーすることが望まれます。
しかし、今回のようにクリニカルパスの一環でオーダーが入り、患者状態と合わない撮影方法になることや主治医以外の看護師や患者状態を理解できていない秘書課のスタッフが代行で、オーダーすることも度々あると思います。
中には、主治医やオーダーを行う方が気づいて、オーダーを変更していただくこともありますが、全てがそういうわけにはいきません。
そのような場合は、現場で撮影を行う前に、患者状態と合う撮影条件に変更してから、撮影を行うことがいいのではないかと考えます。
以前は、鉛マークをパネルに貼り付けて、どちらが右かどちらが左かわかるようにして撮影することが多かったのですが、現在では、技術の進歩により鉛マークをつけなくても自動で、マークがつくようになっています。
よってこのような事例が、発生することが増えています。
アナログ的な対応になりますが、鉛マークを貼り付けて撮影することもいいかもしれません。
その他にも、検像(検査画像をチェックする業務)端末を設けて、スタッフの1人が画像を確認してから、サーバーに転送するようにするという施設もあります。
スタッフの人数が多くないと検像専用のスタッフの配置は難しいかもしれませんが、他のモダリティと兼任で行う、もしくは1日の最後に画像を振り返り確認すると良いのではないかと考えます。
最近の撮影装置は、ほぼデジタル化しており、撮影後にマークをいれたり、左右反転や階調を変えたりすることができ、便利になっていますが、言い換えれば加工が可能ということです。
撮影前に条件を整え、できるだけ画像処理をしないでいいようにしてから撮影することが、望ましいのではと考えます。
次回のダイジェスト版第2弾では、急性期脳梗塞についてご紹介していきたいと思いますので、お楽しみに。