ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト 第2弾ー急性期脳梗塞ー

放射線技師の高石です。

第7回ウェブラジエーション勉強会へご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

今回は、勉強会の内容をダイジェスト版としてご紹介していきたいと思います。

第2弾は「急性期脳梗塞」についてご紹介します。

放射線技師の皆様は、もしかしたら、日頃の業務で遭遇するかもしれない症例だと思います。

ぜひ最後までご覧ください。

症例

80歳代 男性

既往歴:脊椎圧迫骨折、てんかん、高血圧、脳梗塞、肺炎、胃癌

近隣の施設に入院中、発熱。

胸部CTにて肺炎の診断を受けていました。

以降は症状は安定していましたがある日、食思低下・全身浮腫を認めました。その後、意識レベル低下と発熱(+)が出現。採血ではK1.9、BNP2000台(後3000台へ)と上昇があり、心不全の増悪を疑われ当院に転院されました。

※K(カリウム):体内に存在する電解質の1つであり、血液などの液体に溶け込むミネラルです。細胞、神経、筋肉が正常に機能するのに必要な物質であり、血液中のカリウム濃度が高すぎたり(高カリウム血症)、低すぎたり(低カリウム血症)すると、不整脈や心停止などの重大な結果を招くことがあります。基準値は正常範囲3.5〜5.0mEq/Lです。

※BNP(脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド):BNPはそのものが血管を拡げ、尿の排出を促す作用を持っており、心臓へのストレスを和らげる生理作用を持っています。血液中の濃度を調べることで心不全や心肥大など心臓病の早期発見が可能となります。基準値は18.4pg/ml以下です。基準値より高いと、心不全などが考えられます。

入院時の胸部単純X線写真がこちらになります。

入院時の胸部単純X線写真

右の肺野全体がやや白くなっており、肺炎を起こし、軽度の心肥大(心臓の筋肉(心筋)が厚くなること)がある印象です。

→ 意識レベル低下のため頭部CT検査を施行

頭部CTの画像がこちらです。

左:橋レベル 右:基底核レベル
左:放射冠レベル 右:半卵円中心レベル

なにか病変や異常を指摘できますでしょうか?

これは

左中大脳動脈領域(左側頭葉・頭頂葉)に広範囲な低吸収域があります。皮髄境界は不明瞭で、急性期脳梗塞が疑われる画像になります。

急性期脳梗塞の治療選択

急性期脳梗塞の治療として血栓溶解療法(詰まった血栓を溶かす)というものがあります。これは脳梗塞を発症してから4.5時間以内に治療を開始することが必要となります。もしも発症後 4.5 時間以内であっても、治療開始が早いほど良好な転帰が期待できるため、少しでも早く治療を開始することが望ましいとされています。

この症例は検査後すぐに指摘できず、翌日に読影医より指摘を受けた症例になり、残念ながら治療開始が遅れた症例になります。

早期に治療を行うためにも、読影医がいない状態でも我々放射線技師が指摘することが望まれます。

2週間後の頭部単純CTです。

脳梗塞が指摘された部位は急性期よりも低吸収になり、わずかに高吸収域を認めます。出血を合併していることがわかります。

超急性期脳梗塞を見逃すな!~知っておきたいearly CT sign~

脳梗塞でも塞栓性脳梗塞というものが特に重要です。

塞栓性脳梗塞というのは脳以外の心臓や血管より脳の血管径と比較して同程度の大きい血栓である塞栓枝が脳内の血管に飛ぶことによって脳の大きな動脈を詰まてしまう脳梗塞です。梗塞範囲が非常に広く、予後に関しても悪くなります。

塞栓性脳梗塞のように広範囲で脳梗塞が起こった場合はいかに早く血栓溶解療法などの治療に結び付ける必要があります。

頭部MRIの拡散強調画像(細胞内の水分子の運動を画像化し、正常な細胞は水分子の運動が活発ですが、腫瘍や炎症などがある細胞ではこの運動が小さくなります。この状態を画像化したものです。)で脳梗塞と診断がつけばいいのですが、MRIがない施設であったり、あったとしてもMRIの場合は撮影に時間がかかってしまい治療までに時間がかかる場合があります。

急性期脳梗塞が疑われる場合は早期発見のためにCTがまず選択されてます。

ではCTで急性期脳梗塞はどのように観察できるのでしょうか?

急性期脳梗塞時の頭部単純CTで大事なのは出血の除外という大きな役割がある一方で、塞栓性脳梗塞の場合は、early CT signという以下のような特徴的なサインがあります。

急性期脳梗塞を疑われ、CT検査になった場合はこのサインを注意深く観察してみてください。

①皮質-白質境界・島皮質の不明瞭化

発症後2〜3時間で出現します。皮質の吸収値が低下し、白質との境界が不明瞭になります。島皮質はinsular ribbonとも呼ばれ、外包・前障・最外包の部位に相当し、他部位よりも頭蓋骨のアーチファクトが少ないため観察が容易です。

②シルビウス裂の狭小化

脳溝の消失・脳実質の低信号化

発症後3時間以降に出現することが多く、浮腫性変化を反映した所見です。

④レンズ核の輪郭不明瞭化

発症後1〜2時間で出現します。レンズ核は穿通枝灌流領域で虚血に対して脆弱なため、より早期から輪郭が不明瞭化します。

⑤hyperdense MCA sign

発症直後より出現。中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)内に血栓を反映した高吸収構造を認め、同部より末梢血管も血栓化を反映して高吸収になります。

超急性期脳梗塞(発症後数時間)

急性期よりも早い段階の超急性期脳梗塞(発症後数時間)の場合はどうでしょうか。

発症後数時間の超急性期脳梗塞の場合は、MRIやCTでも指摘困難です。

中にはCTで皮髄境界の不明瞭化や脳実質が腫大していたり、CT画像のウィンドレベル(画像として表示させるCT値の範囲(WW)の中心を示します。)を絞って左右比較して低吸収域がないか観察すると指摘できる可能性がありますが、それでもMRIやCTで指摘することは困難なケースがほとんどです。

発症後数時間の超急性期脳梗塞の場合は、画像所見だけでなく臨床所見とあわせて主治医に評価していただくことが重要になります。

放射線医への質問

発症後数時間の超急性期脳梗塞の頭部CTで所見がなかった場合、時間をおくと低吸収域として現れてくるが、どれくらい時間をおいたらいいのか?という質問がありましたが、

時間をおいて撮影するよりも臨床症状がでているなら脳梗塞の可能性を視野に入れ、迅速に治療に移行するためにもMRI検査が施行できる施設や治療が可能な施設に搬送する方が良いのではないかと思います。画像で全てを判断するのではなく臨床症状も含めて判断することが大切です。

次回のダイジェスト版第3弾では、急性硬膜外出血についてご紹介していきたいと思いますので、お楽しみに。