ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト 第3弾ー急性硬膜外出血ー
放射線技師の高石です。
第7回ウェブラジエーション勉強会へご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
勉強会の内容をまとめたダイジェスト版第3弾は「急性硬膜外出血」についてご紹介します。
放射線技師の皆様は、もしかしたら、日頃の業務で遭遇するかもしれない症例だと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
症例
50歳代 男性
左母指MP関節周囲の腫瘍(左母指血管平滑筋種)摘出術施行のため入院された方です。
下画像は、術後の手のレントゲンの画像です。
術後9日目、退院予定2日前にトイレで息んだ後、突発的な頭痛・後頚部痛の訴えが出現しました。
症状は継続し、特に右頚部回旋で症状増悪(+)。当時は、両手の脱力感も伴っていたようです。。
その後、対処療法により一時疼痛は改善するが、症状が再燃し歩行時の浮遊感などを伴いました。
発熱(-)、嘔気・嘔吐(-)。両上肢下肢の明らかな麻痺もなし。
既往歴:なし
→原因精査のため頭部CT・頭部MRI検査を施行。
実際の頭部CT画像がこちらです。
左の画像が、頭部CT横断画像です。右の画像が、矢状断画像になります。
皆さんはこの画像から、なにか病変や異常を指摘できますでしょうか?
これは、
実際に読影を行った放射線科診断専門医のコメントです。
この方は、形成の手術で入院されており、全身状態は良好な方でした。
突然頭痛が出現し、CTを撮影されたのですが、そのあと、総合診療科の医師がCTの画像をみて、特に何もないと判断されましたが、念のため読影医にみてもらおうということで休日に読影依頼がありました。
総合診療科の医師より「自分が画像を見るかぎりでは何もないけど」という前情報があったためか、特に問題ないと読影結果を返却しました。
しかし、症状が持続しているため神経内科の医師と主治医が話し合って、退院させずに、念のため形成外科病棟から神経内科病棟へ転棟し、入院を継続することになりました。
私が見たのは、左の画像で、特にないと判断したのですが、よくよく見ると橋(脳幹部)前層に高吸収(淡く白く写る)があるのがわかります。
アーチファクトではなく、出血を疑わなければならなかったのですが出来ていませんでした。
実は担当した放射線技師は画像の違和感に気づいており、矢状断を作成していました。
それが右の画像ですが、矢状断でみると、橋前層に高吸収域陰影がわかりやすく描出されており、橋前層に出血があるということがわかります。
横断像だと、頭蓋底は特にビームアーチファクトやpartial volume effect※によるアーチファクトが出現しやすい場所で、その部位の評価の重要性が低くなりがちです。
だからこそ評価する際は、注意深く観察しないといけない場所でもあります。
今回はその部位に、たまたま出血が発生したくも膜下出血ということで残念ながら見逃してしまったという症例です。
この方は、同日にMRIも撮影したのです。
MRIのFLAIR像では橋前層に高信号が出現しており、これからでも気づくべきだったと思います。
放射線技師だけでなく、読影医もこの部位は見逃しやすいということを再認識してもらう必要があるかなと思います。
今回の症例は横断像よりも矢状断、MRIよりもCTが観察しやすい症例でした。
頭蓋底の病変について
頭部CTにおける頭蓋底部では、頭蓋骨や乳突蜂巣(空気)が存在するためビームハードニングアーチファクトが発生しやすい場所です。
また、骨のアーチファクトやpartial volume effectで高吸収に見えることがあります。
したがって、頭部CT画像の読影に際してはこのartifactを正確に判断することが診断上重要になります。
それでは、ビームハードニングアーチファクトとPartial Volume Effectについて説明したいと思います。。
ビームハードニングアーチファクトとは?
CT撮影時に使用されるX線は連続エネルギーを持ち、物質の吸収係数がエネルギーによって変化します。
低エネルギー成分が吸収されることで、X線の平均エネルギーが透過後に高くなり、線質が硬化します。
このことをビームハードニングといい、線質が硬化すると、減弱係数は低下(透過力が増加)するため、中央部分のCT値が低下する(カッピング)。
後頭蓋窩のように分厚い骨構造で囲まれた領域ではCT値が低下しダークバンドが発生します。
Partial Volume Effectとは?
CT画像において、異なる組織や構造が同じボクセル(画素)内に混在している場合に生じるアーチファクトです。
1つのボクセル内に複数の組織が含まれているため、それぞれの組織のCT値が平均されてしまう現象です。
頭蓋底の場合、骨と脳組織が近接しているため、CT画像においてPartial Volume Effectが顕著に現れます。
これは、骨と脳組織の密度差が大きいため、同じボクセル内に両方の組織が含まれている場合、そのボクセル内のCT値は平均化されるので、骨と脳組織が近接している部位の脳組織が周囲の脳組織と比較して高吸収域として現れます。
※参考資料:「画像診断のまとめ【保存版】脳挫傷とは?症状やCT画像、治療方法をわかりやすく解説!」より
このように頭蓋底の病変はアーチファクトと誤解されやすい部位です。
今回は、矢状断を追加するなどの観察時の工夫をしましたが、撮影時にアーチファクトの出現を減らす対策検討も必要かと思います。
ビームハードニングアーチファクトの対策として、投影データの非線形補正やソフトウェア補正を用いてビームハードニング補正処理を行ったり、MPR(画像再構成画像)にて違う撮像断面から観察するなどが挙げられます。
Partial Volume Effectの対策として、スライス厚を薄くする。
MPRにて違う撮像断面から観察する必要があります。
放射線技師ができるだけアーチファクトを減らして撮影することが望まれます。
次回のダイジェスト版第4弾では、tree-in-bud signについてご紹介していきたいと思いますので、お楽しみに。