肩腱板断裂とは?
放射線技師として活動している高石です。
画像レッスンとはあらゆる画像をみながら、見落としてしまいそうな症例や画像からみられる診断についてを学んでいただく放射線技師・医師やそれを目指す人たちへのまなびの「場」です。
皆さん、肩の腱板(けんばん)という言葉を耳にしたことはありますでしょうか?
解剖学的にどこを具体的に指すか想像しづらいかもしれません。
今回のレッスンでは「肩の腱板断裂(けんばんだんれつ)」についてご紹介したいと思います。
腱板(けんばん)とは?
腱板(けんばん)は、肩の深部にある腱性組織のことです。
その中には、棘上筋腱(きょくじょうきん)・棘下筋腱(きょくかきん)・肩甲下筋腱(けんこうかきん)・小円筋(しょうえんきん)と呼ばれる腱から成り立っています。
下の画像をみてもらうとわかるように、白いスジっぽく見える部分が腱板です。
今度は横からみてみましょう。
横から見ると、腱が密接に重なり、板状に見えるため腱板と呼ばれています。
腱は、肩甲骨からでていて、上腕骨を支える腱を総称して回旋筋腱板(かいせんきんけんばん)といいます。
そして、回旋筋腱板の中でもっとも損傷しやすいのが棘上筋腱で、次に棘下筋腱と言われています。
損傷の原因は様々ありますが、主に加齢変化によって腱の柔軟性がなくなり、そこに軽度な外力などが加わると断裂が生じます。
その他にも、インピンジメント症候群※と呼ばれるものがあります。
これは繰り返される挙上動作(いわゆる腕を上げ下げしたりする行為)により、骨頭と肩峰の間にある腱板がすり切れ、浮腫⇒炎症⇒部分断裂⇒完全断裂という過程を経て、進行するもので、
この2つが、腱板断裂の主な原因です。
※インピンジメント症候群とは、肩を上げていくとき、ある角度で痛みや引っかかりを感じ、それ以上に挙上できなくなる症状のこと。
腱板断裂の特徴
中高年者に多いのですが、若年者でもスポーツなどによる活発な強い動作によって断裂することもあります。
腱板断裂は運動時痛に加え、安静時、特に睡眠中痛みを伴う夜間痛が多いのが、特徴的です。
肩の症例の多くは、MRIで検査されます。なぜMRI検査が選択されるかというと、下の4つの大きなメリットがある理由から選択されています。
1.組織コントラストが良い
2.非侵襲性の検査
3.腱板だけでなく、骨組織が評価できる
4.単純X線やCTでは評価できない骨損傷(骨挫傷や不全骨折)などの診断に役立つ
簡単に言うと運動器の観察はMRIが観察しやすいということです。
その中で、腱板断裂は、肩に関する症状の中で最も多いMRI検査の症例です。
腱板断裂の画像所見
それでは、ここから腱板断裂の画像から所見を見てみましょう。
直接的所見としては、T2強調画像&脂肪抑制併用T2強調画像で筋腱の高信号や腫大、腱の不連続性があります。
間接的所見としては、断裂した部位の周囲に浸出液や血腫などの液体貯留があります。
先ほどもお話しした通り、肩の症例の多くは、MRIで検査されます。
これは正常の棘上筋腱と断裂の棘上筋腱を比較したものです。
左の画像が正常の脂肪抑制併用T2強調像の棘上筋腱の冠状断です。
右の画像は断裂所見のある脂肪抑制併用のT2強調像の棘上筋腱の冠状断です。
棘上筋腱の断裂部位がT2強調像で高信号に白く観察することができます。
T2強調画像で高信号(白く見える箇所)ということは、水分が多いということです。
損傷が生じると滲出液が損傷部位にたまるため、損傷部位はT2強調像で高信号(白く)になります。
T2強調画像と脂肪抑制併用T2強調画像で、腱板の評価はできるのですが、骨や腱筋腹の脂肪浸潤などの評価を行うためT1強調画像の撮影も必須です。
腱板断裂の治療
それでは、どのような治療を進めていくか?に、ついてもご紹介します。
患者自身の背景の有無や断裂の度合いにより、治療方針が決まります。
変性を基盤とする中高年の腱板不完全断裂には、保存療法※と呼ばれるものが選択されます。
薬物療法や理学療法で3〜6カ月で7割症状が改善されると言われています。
残りの3割の疼痛改善が見られない場合や完全断裂の場合、若年者における外傷性断裂やスポーツによる断裂に対しては、手術療法が選択されます。いわゆる外科手術です。
このように断裂でも完全断裂なのか、部分断裂なのか、部分断裂でも関節面の断裂なのか、腱内の断裂なのか、滑液包面の断裂なのか、などで治療方針が検討されます。
そのため、MRI検査で細部まで観察することが非常に大事なポイントになります。
※保存療法:手術を行わない治療の総称。直接原因を取り除くのではなく、症状の改善や緩和を目指す治療のこと。
症例
それでは、各画像から症例をご紹介します。
こちらの画像は、いずれも脂肪抑制併用T2強調画像の棘上筋腱の冠状断です。
左の画像は、棘上筋腱の関節面の断裂で、右の画像が、滑液包面断裂になります。
左の画像を見てみると、赤い矢印箇所に上腕骨頭の方で液体貯留を認めます。
これは、関節包面での断裂と、判断することができます。
次に右の画像では、赤い矢印箇所に、肩峰の方にて液体貯留を認めるので、滑液包面での断裂と判断することができます。
腱の断裂により腱の形態が変わり、断裂しているところに空間ができるため、断裂した方面に液体貯留を起こします。
続いて、こちらはどうでしょうか。
いずれも脂肪抑制併用T2強調画像の棘上筋腱の冠状断です。
棘上筋腱に高信号域がありますが、関節包面・滑液包面のどちらかに液体貯留があるか判断がつきにくいと思います。
これは、腱内断裂の画像です。
腱内の高信号と、腫大を認めます。液体は均一に貯留します。
続いての症例です。
左の画像はT2強調画像の横断像で、右の画像が脂肪抑制併用のT2強調画像矢状断です。
所見は指摘できますでしょうか?
これは、左の画像で、赤矢印箇所に、本来なら棘下筋腱が走行しているのですが、棘下筋腱は確認できないため、腱の断端のみ確認できます。
棘下筋腱の完全断裂により腱が萎縮していることがわかります。
腱が完全に断裂すると、このように筋腹に腱が引っ張られ腱が、委縮し存在するはずの腱が観察できなくなります。
また、右の矢状断像でも赤矢印箇所に、棘下筋腱が存在するはずが、液体で満たされているためこの症状は、棘下筋腱の完全断裂とわかります。
この画像には、もう一つ所見があります。みなさんは、どこかおわかりでしょうか?
矢状断で青印箇所に、通常は棘上筋腱があるのですが、この画像をよく見てみると、液体で満たされてしまっていて、棘上筋腱が確認できません。つまり、棘上筋腱の完全断裂になります。
このように、腱板断裂は一か所のみでなく、複数の腱で断裂を起こすこともあるため、腱板全体を注意して観察する必要があります。
以上が、肩の腱板断裂についてのご紹介でした。みなさん、いかがでしたか?
日常でも、良く目にする腱板断裂ですが、腱板と言っても中には、棘上筋腱・棘下筋腱・肩甲下筋腱・小円筋といくつもの腱から成り立っているため、検査画像を注意深く観察し、断裂部位や損傷の症状見極めて、治療方針を決める必要があります。
我々が、症状や撮影画像を観察しながら、適切に評価できるように、撮影範囲や撮影分解能などの撮影条件を設定して検査を行うことが非常に重要なのです。