「立位CT」とは?画像からわかること

こんにちは、ラジエーションジャーナル編集部、診療放射線技師の林です。

普段、我々が撮影しているCT(コンピュータ断層撮影)は患者さんが横たわった状態(臥位)でのポジショニングが必須です。数年前にこの常識を覆す装置が開発され、それが今回の記事で取り上げる全身用立位・座位 CT(以下、立位CT)。名前の通り患者が立った状態で検査が可能なCT装置で2017年に慶應義塾大学病院に導入され、キヤノンメディカル株式会社と共同で研究が進められています。

では一体、このCT装置はどのような特徴があるのか調べましたので今回報告したいと思います。

装置の概要

従来CT装置では、縦置きになっていたガントリー(架台)を横置きにし、上下動をさせることで、立位または座位での撮影が可能なCT装置を実現しています。臥位でのポジショニングと違い姿勢静止保持の工夫が必要なため、用具や座位撮影を可能にする座位撮影補助具も現在開発し、検出器は320列、一回転を最速0.275秒のスキャン時間で最大160mm幅を0.5㎜スライス厚で撮影可能でかなり高スペックな装置です。

特徴

①重力の影響を評価

腰痛の原因に脊椎すべり症や椎間板ヘルニアなどがあるが、立位で腹圧がかかることにより臥位と比して、病態が明らかになることがあります。また荷重がかかる膝関節の異常は、立位のほうが早期の異常を検出しやすく、変形性膝関節症の重症度判定は荷重位での大腿骨に対する脛骨の回内の程度の差を見ることで、早期のGrade1と2の判別を明確に区別することが可能になりました。骨盤領域について、骨盤底の緩みは 50 歳以上の女性の多くで見られ、尿失禁などの原因となります。この装置を用いて、膀胱頸部や直腸肛門移行部の位置の評価を立位で経時的に変化を追うことで骨盤底の経年的な緩みを判定できます。

②ワークフローの改善

一般撮影検査のように立ったまま出入りして検査ができるので、従来CTより短い時間で検査が可能となります。(慶應義塾大学医学部の報告ではCT検査入退室時間が約40秒と短くなったとのこと) また実際の撮影現場では、疼痛が強く横になることが困難な患者が多く存在するため、患者の負担に関しても立位での撮影は有効となります。

③肺野領域の評価

肺の容積は臥位に比べて立位(または座位)の方が約10%大きいと報告がある。増加率は吸気で上葉が約6〜8%、下葉が約12〜14%であり、下葉で変化が大きかった。中葉では変化がないとのこと。

④静脈の変化

体位による静脈径の変化は、部位ごとに異なることが示され、躯幹部は心臓より高い位置では立位で臥位より静脈径が縮小し、心臓より下方では増大する。頭蓋内の静脈系は立位でも臥位でも変化しない。これらの現象は静水圧の影響と考えられる。今後、心不全の患者で立位でも上大静脈が縮小しないことから、その変化率を心不全の重症度判定に用いることができる可能性があるとの報告もある。

いかがだったでしょうか。

立位でCT撮影することは、患者への負担軽減効果や特定の診断や評価において非常に有効であるようです。従来のCT検査にはない、重力の影響を考慮した評価が可能で自然な姿勢での臓器や構造物の状態を観察することが可能です。今回の装置で得られる画像情報は、従来評価できなかった診断を提供し、患者の症状や状態に応じた適切な治療計画を立てるのに役立つことでしょう。

以上、今回の記事も皆さんのお役に立てば幸いです。

参考文献

:慶應義塾大学医学部  世界初の「全身用320列面検出器型の立位・座位CT」を   産学連携により開発 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2017/5/2/170502-1.pdf