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第8回ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト 第2弾 ―単純CTで見つけるスタンフォードA型解離―

放射線技師の高石です。

第8回ウェブラジエーション勉強会へご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

今回は、勉強会の内容をダイジェスト版としてご紹介していきたいと思います。

第2弾は「単純CTで見つけるスタンフォードA型解離」についてご紹介します。

放射線技師の皆様は、もしかしたら、日頃の業務で遭遇するかもしれない症例と思います。

ぜひ最後までご覧ください。

症例

70歳 女性 意識消失

運転中に意識を失い、そのまま1km弱運転し、停車中の車にぶつかり受傷。

救急外来へ搬送されたが、症状はなくそのまま帰宅となった方です。

その後、嘔吐や後頭部の違和感を何度か経験したため、事故後5日目に当院を受診した。

既往歴:高血圧、高脂血症

頭部MRI:頭頂部に微小な脳梗塞、動脈硬化、慢性虚血性変化

→嘔吐もあるため念のため胸腹部CTを施行となりました。
その時の画像がこちらになります。

胸部の縦郭条件になります。

比較的息止めは良好に撮影できています。

特に胸部の症状の訴えはありません。

何か指摘できますでしょうか?

一番の指摘部位は上行大動脈だと思います。

階調を変えると

上行大動脈の右壁から前壁にかけて高吸収部位があり、この部位が異常ではないかと指摘できます。

上行大動脈右壁のびまん性の高吸収域という指摘を受けました。

上行大動脈解離疑いです。

この方はすぐ転院され、転院先で造影CTを施行されました。

造影CT画像

大動脈に解離を認め、手術となりました。

術後単純CT

大動脈解離について

大動脈は、内膜、中膜、外膜の3層からなりますが、

中膜は遺伝的素因などが原因となり、他の膜と比べてやや脆い傾向にある。

そして高血圧などが原因となり、大動脈の壁に負担がかかると、内膜及び中膜の途中で大動脈が裂けてしまうことがある。これを大動脈解離と言う。

本来の正常な大動脈腔を真腔(true lumen)、

裂けて新たにできた大動脈腔を偽腔(false lumen)。

【保存版】大動脈解離まとめ!症状・治療・CT画像所見のポイントは?

真空・偽腔は必ずしも作られるわけではありません。

解離を起こすと内膜がさけて、中膜まで引き裂かれます。

大動脈は体の中で最も血圧が高い部位の1つで、ここで一気に内膜が破たんして一気に中膜を引き裂くように膨らんでいきます。

今回の症例の上行大動脈の高吸収部位は壁内血腫で、その段階では解離が起こっていると言えないが、動脈の壁の中に出血ができてきて解離する予兆の段階です。

それが救急搬送され、搬送先にて造影CTを施行した時には解離腔ができていました。

この解離腔に造影剤が入っているので、血栓で閉鎖していない状態の大動脈解離の状況でした。

この大動脈解離は一気に高い圧の血流が入ってくるので、一気に広範囲にはがれることが多い。

ある程度のところで踏みとどまっているが、さらに治療が遅れるとさらに裂けてしまいます。

なので早期発見が望まれます。

本来なら胸部症状が出るが、中には今回のように症状が出ない方もいます(高齢者は特に症状に気づかないことがあります)。

本来ならものすごく痛みが出るので、臨床症状から疑うことができますが、症状がない方で解離を疑うのはなかなか難しいと思います。

大動脈解離分類

基本的に上行大動脈に解離があれば緊急手術になります。(腕頭動脈よりも近位側が上行動脈)

手術の適応になるのかならないのか分類が大事になります。

今回のように上行大動脈の壁に高吸収があれば緊急手術の適応になるので、このような症例であればすぐ主治医に連絡し対応してもらう必要があります。

このStanford分類というのは新しい分類でAタイプ、Bタイプがあり、上行大動脈に解離があるかないかで分類されています。上行大動脈に解離があれば手術適応になり、上行大動脈に解離ないのであれば保存療法になります。

その他にもDeBakey分類というものがあり、Ⅰ型は4人に1人がなくなると言われており、Ⅱ型つまり上行大動脈に限局していれば8人に1人がなくなると言われています。Ⅲ型は10人に1人なくなると言われています。

つまり上行大動脈に解離があると死亡率が上がるので、上行大動脈に解離があった場合はすぐ手術が適応になるというものです。

StanfordB型やDeBakeyⅢ型であれば血圧に注意しながら保存的に治療が可能です。

大動脈解離がある場合は、特に上行大動脈に解離があるかないかに注意して下さい。

大動脈解離の画像診断

CTが画像診断では大事になります。

造影CTできなくても単純CTでもいいです。

単純CTで、血管壁の高吸収や内膜が剥離すると動脈硬化性の石灰化が壁からずれることがあるのでそれらを観察します。

動脈硬化がある人であれば、動脈硬化の石灰化のラインが壁から離れていないかどうかを見ることも単純CTでの解離の観察ポイントになります。

偽腔は血腫化するのですが、急性期の解離の場合は高吸収になるので、わかりやすいです。

解離腔が、偽腔の閉鎖型なのか、開在型なのかでも治療内容が違ってきます。

解離腔の偽腔が血栓で閉鎖してしまうと、そこに血流が入らないので安定してきているのがわかりますが、不安定になるとULP型のように一部が穴が開いたように造影剤が入り込んでくると不安定になってきたことがわかります。活動性が出てきたのではないかと判断でき、治療をどうするか再度考えないといけません。

血栓が開存しているのか、閉塞しているのか、ULPのように一部が穴が開いているのかがポイントになります。

このULPは造影しないと判断できないので造影CT検査は必須になります。

保存療法が適応された方の経過観察は造影CT検査が望まれます。

その他の症例

意外と単純CTで大動脈解離を疑った症例が多々あります。その一部を紹介します。

50代 女性

食事中に右頸部痛・心窩部痛を訴え救急搬送された。

大動脈に沿ったオブリークMPRの画像を作成、またWW/WLを変えた画像を作成し、解離腔が観察しやすいWW/WLで画像を作成。

単純CTで解離をみるときはWW/WLを変えると観察しやすくなります。

胸背部痛があって大動脈が大きそうなどの疑いがあれば、WW/WLを変えて観察することが大事です。

この方は急性大動脈解離A型(偽腔閉鎖型)と診断されました。

80台 女性

1カ月前から続いている胸痛を訴え来院。Hb7.9と貧血が進行しており入院し輸血を実施。

上部消化管の出血がないことをGFにて確認し、胸痛原因検索のため冠状動脈の精査のため心臓CTとなりました。

ボーラストラッキング法 モニタリング画像です。

赤丸に、造影剤にて染まらないことに気づき、撮影者が気付き冠状動脈撮影後放射線科医に報告し、胸腹部を追加撮影となりました。

こちらが胸腹部CT画像です。

上行および下行大動脈径の拡張と壁肥厚があり、大動脈解離が疑われました。

胸痛がある場合は、冠状動脈だけでなく大動脈も注意深く観察する必要があることを考えさせられた症例でした。

大動脈解離は単純CTで90%診断可

症状があり大動脈解離疑いという目的があれば単純CTでも拾い上げることはできると思います。

自院で造影CTを施行してから画像情報として対応可能な病院へ搬送することが求められますが、大動脈解離StanfordA型のように一刻も争うような状況であれば、自院で造影CTを施行してから対応可能な病院へ転院するよりもできりだけ早い段階で対応可能な病院へ転院する方が良いのではないかと考えます。

造影検査をするまでに解離が広がる可能性もありますし、搬送中に解離範囲が広がる可能性もあります。大動脈解離を疑ったら主治医に報告してすぐに対応可能な病院へ搬送した方が良いと思います。