上腕骨近位骨折の見分け方|正常な画像と比較

放射線技師として活動している高石です。

画像レッスンとはあらゆる画像をみながら、見落としてしまいそうな症例や画像からみられる診断についてを学んでいただく放射線技師・医師やそれを目指す人たちへのまなびの「場」です。

今回は上腕骨近位骨折について紹介します。

まずは、こちらをご覧ください。

症例①

80歳女性
転倒し肩の痛みを訴え、救急外来受診された方です。
肩のX線画像です。

左の画像が転倒した方の肩の概観正面撮影のX線画像です。
右の画像は正常の方の肩の概観正面撮影のX線画像です。

どこが異常かわかりますか?
正常像と比較してみてください。

矢印に正常では確認できない黒い線が見えると思います。
これは「上腕骨近位骨折」といわれる骨折です。

「上腕骨近位骨折」の主な受傷原因は転倒や転落などの外傷高齢者女性に多く、「※4大骨折の1つ」とされています。比較的に癒合が得られやすく、 予後も良好とされています。

※高齢者に多い4大骨折とは
上腕骨近位端骨折(肩)
橈骨遠位端骨折(手首)
大腿骨近位部骨折(太ももの付け根)
脊椎圧迫骨折(背中・腰)

治療法としては、転倒による受傷機転が多く低エネルギー骨折のため転位が少ないことが多いため保存治療が選択されます。骨融合が得られない場合や転位が大きい場合、手術で金属製の板やネジで固定したりします。回復にはリハビリテーションが必要で、できるだけ早く始めることが望ましいとされています。

上腕骨近位骨折の検査

骨折の多くは、X線撮影で検査されます。上腕骨頸部骨折もまずはX線撮影検査されました。X線撮影の内容としては、肩の概観正面撮影と肩の関節面にを出すように撮影する斜位のTure APが撮影されます。場合によっては肩の軸写や肩甲骨スカプラY撮影を行う場合もあります。

レントゲン上、骨折がはっきりとわからなかったり、骨折の型を詳しく観察したい場合はCTやMRI検査が選択されます。

骨折の分類

現在、主流となっている分類は1975年に発表されたNeerによるものとAO分類の2種類が普及しています。


Neer分類は上腕近位の骨構造を上腕骨骨頭、大結節、小結節、上腕骨幹部の4部に分け、その分離度によって分類するものです。大結節・小結節の骨片があり離れていると、より重症であると判断されます。
骨片の転位が1㎝以上あるいは45度以上あれば転位ありとし、それ以下を転位なしとして、2〜4骨片骨折にわけてこれに関節面の圧潰型骨折を加えたものです。

AO分類は、Neer分類と同様に解剖学的な分類に基づいていますが、より骨頭の血流状態や骨頭壊死の可能性を予測するのに特化した分類法です。

※AO分類は大まかにAタイプ(関節外骨折)、Bタイプ(部分関節面骨折)、Cタイプ(完全関節内骨折)の3タイプに分けられております。

上腕骨近位骨折の分類ではNeer分類が最も広く使用されており、骨幹部骨折の分類はAO分類が使用されています。

上腕骨近位骨折の治療

骨折の程度によって治療方法が検討されます。
保存的治療:
骨折による骨のずれ方が少ない場合は、三角巾やバンドで腕を体に固定し治るのを待つ

手術:
骨のずれが大きいまたは骨のかけらがある場合に行う
・髄内釘固定法
・プレート固定法
関節面に損傷の大きいものや粉砕型の骨頭骨折の場合は人工骨頭置換術を行うこともあります。

ですので、上腕骨頸部骨折の画像検査では骨折による骨のズレや骨片、関節面の評価を行います。

上腕骨近位骨折の特徴

上腕骨骨幹部は解放骨折が少なく、軟部組織に包まれ良好な血行があるため、骨融合が得られやすい部位です。
この部位に特徴的なものとして、投球や腕相撲での捻転力で骨折する螺旋骨折を生じる場合があります。
上腕骨頸部には肩の腱板の付着部である大結節と小結節と呼ばれる部位があります。上腕骨近位端骨折を起こすと、骨が破綻するとともに腱板に引っ張られるため、大結節、小結節が独立した骨片となりやすくなります。
ですので骨折の部位によって転位の方向がある程度一定されます。
大胸筋停止部より近位での骨折の場合は近位骨片は棘上筋にひかれて外転位を呈し、遠位骨片は三角筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋・大胸筋などにより牽引され近位内側前方へ転位します。
三角筋と大胸筋停止部の間の骨折では近位骨片は大胸筋に牽引され内側前方へ、遠位骨片は三角筋によって外側近位へ転位します。
三角筋付着部より遠位での骨折では近位骨片は三角筋により牽引され外転し、遠位骨片は上腕骨二頭筋・三角筋により近位に引き上げられます。

いずれの骨折も上腕骨頭頸部付近に腋窩神経と橈骨神経が走行するため、合併症として橈骨神経麻痺の注意が必要になります。

症例

72歳 女性
転倒して左肩痛が出現してきたため救急外来を受診し、X線撮影となりました。その時のX線画像です。

左の画像が肩の概観正面画像で、右の画像が関節を出すように斜位になり撮影したTure AP撮影画像です。
上腕骨頸部の骨折があることがわかります。
Neer分類では2つの骨片が転位しており、3-part骨折と考えられます。
この方は、72歳と高齢ですので保存療法といきたいのですが、骨片が3つ以上転位しておりプレート固定や髄内釘固定術などの手術を検討しなけばなりません。

以上、上腕骨近位骨折についてのお話でした。

いかがでしたか?

骨折の状態で治療や手術の選択が変わってきます。
上腕骨近位骨折の場合は疼痛のため腕を動かすことが困難で、X線撮影に苦慮すると思います。
レントゲンで分類ができるように上腕骨近位部を2方向撮影することが望まれますが、場合によっては無理せずにCT検査を行う方が良いのかもしれません。患者さんの状態に合わせた撮影方法が望まれます。