磁気共鳴医学会 ~STIRの注意点~
ラジエーションジャーナル編集部の林です。
第52回日本磁気共鳴医学会大会に今年も参加しました。
今年は、9月22日(金)から24日(日)の3日間、千葉・幕張メッセで開催されました。
日本磁気共鳴医学会大会とは、MRI検査を愛して止まない診療放射線技師や放射線科医が多く参加することで有名な、非常にマニアックな学会です。
取り上げられる内容といえば、臨床的な講演(例えば、医療安全の話や患者さんのポジショニングなど)からラットを使用した最先端技術を駆使した治験的な研究発表と多岐に渡ります。
今年も例年同様、ハイブリッド開催となり、オンライン参加によって、様々な講演を視聴することができました。
3日間のオンライン参加視聴による内容の中で、最も興味深い内容をピックアップさせていただきシリーズとしてご紹介したいと思います。
STIRの注意点
第1回目は、「STIRの注意点」についてご紹介したいと思います。
シンポジウム「RTとMDで考える撮像プロトコル:いつなにを撮るか」とういうセッションで”骨軟部のMRI”の講演を拝聴しました。
その講演の中で挙げられた一例です。
前医にて腰背部痛の原因精査でMRI検査をしたところ硬膜外脂肪腫疑いであった患者で、再度紹介先でMRI検査をした際、
STIR →脂肪抑制効果あり
脂肪抑制T2強調画像 →脂肪抑制効果なし
であったとのこと。
これに伴い診断名が硬膜外脂肪腫 → 硬膜外血腫となりました。
硬膜外血腫について今回掲示された症例患者は大丈夫だったのですが、臨床症状や出現する場所、形状によっては緊急で手術が必要となるケースがあります。
同じ脂肪抑制T2コントラストである2つのシーケンスに信号の違いがでてしまった今回の報告、どうしてこのような現象が起きたのでしょうか?
脂肪抑制法の違い
今回撮像した脂肪抑制T2シーケンス2種は選択的脂肪抑制法と非選択的脂肪抑制法で、STIRは後者です。
非選択的脂肪抑制法STIRの特徴は、
①null pointを脂肪に合わせたIR法である
②脂肪と同程度のT1値を有する組織の信号も抑制される
③全体としてSNRは低くなる
④非選択的脂肪抑制法CHESS法に比べ磁場の不均一に強い
などが挙げられます。
②のように脂肪特異性は低く、脂肪成分でなくても脂肪抑制される可能性があるため、腫瘤の質的診断をMRIで行う場合はSTIRは不適切だということが言えます。
ちなみに選択的脂肪抑制法CHESS法(周波数選択的脂肪抑制法)の特徴は、
①目的部位の信号が抑制されるか否で脂肪であるかの判定ができる
②磁場の不均一に左右されやすい
③低磁場には不向き
④撮影条件に制限がかかる。TRの延長もしくは撮影可能枚数の現象
こちらの脂肪抑制法では脂肪の共鳴周波数のみ狙って信号を抑制します。
撮影のターゲットである腫瘍が脂肪成分を含んでいるか否かについては、STIRでなくCHESS法での撮像が適していることがわかります。
MRI検査のオーダーをいただく際、主治医より「STIRの撮影をお願いします」とのコメントいただく機会があります。
今回のような脂肪抑制T2のコントラストが診断に重要な場合は、STIRが脂肪抑制T2強調画像の代用にならない場合があることを理解しておく必要があります。
次回もお楽しみに。
※引用文献