「成長期アスリートに多発する股関節痛」
放射線技師として活動している高石です。
画像レッスンとはあらゆる画像をみながら、見落としてしまいそうな症例や画像からみられる診断についてを学んでいただく放射線技師・医師やそれを目指す人たちへのまなびの「場」です。
まずこちらの症例をご覧ください。
症例①
12歳の男性。
主訴:サッカー中にボールを蹴る際にボキッと音がした。痛みはなかったが、徐々に鼠径部から大腿にかけて腫脹が出現したため受診され、X線撮影検査となりました。その時のレントゲン画像です。
左股関節周囲の痛みを訴えています。異常所見は指摘できますか ?
正面画像だけではなかなかむずかしいと思います。
次に骨盤の両側斜位のX線写真です。
いかがでしょうか?
異所見は指摘できますか ?左右比較するとわかりやすいと思います。
この方はCT検査もされました。その時の3DCT画像です。
CT画像でも前腸骨棘の形態の異常を認めます。
これは何かというと、「下前腸骨棘裂離骨折」というものです。
過剰な運動をする若年者の股関節周囲の疼痛として発症することが多い疾患です 。
大腿直筋は下前腸骨棘に付着しており、大腿直筋の強度な牽引力が下前腸骨棘を裂離骨折させてしまいます。
※裂離骨折とは、筋肉や腱・靭帯に引っ張られて付着している骨が剥がれ骨折することをいいます。
特に骨端核の癒合が不十分な若年者で発症することが多い疾患です 。
短距離走やキックなどで大腿直筋が収縮することで起こります。
この症例もサッカーをやっていたので、キックで大腿直筋をよく使ってたので発症したと推測されます。
症例2
16歳の男性。
主訴:200m走中に左の腸骨部痛を発症しています。
この症例も骨端核が融合しておらず若年者と考えられます。
何か指摘できますでしょうか?
次に骨盤の両側斜位のX線写真です。
異所見は指摘できますか ?
次にCT画像です。
CTの3D画像です。
これを見るとわかりやすいと思います。
これも先ほどの症例と似ているのですが、さっきの症例とは少し違い「上前腸骨棘裂離骨折」というものです。
下前腸骨には大腿直筋が付着していましたが、上前腸骨棘には大腿筋膜張筋と縫工筋の腱が付着しています。
ダッシュや走り幅跳びなどで縫工筋や大腿筋膜張筋が収縮することで起こります。これも骨端核の融合が不十分な若年者に多い疾患です。
治療について
いずれも疾患の治療は保存療法が選択されます。手術を行わずに安静や冷却、固定などを行いながら、骨融合を待つ治療法です。
痛みが生じにくい姿勢をとり、患部を動かさないよう安静にし、炎症を抑えるために患部の冷却が行われます。
裂離骨片の転位が大きく、骨融合が期待できない場合、自然な骨癒合が難しいと判断される場合には、手術により剥がれた骨を正しい位置へ移動し、固定することもあります。
スポーツの復帰に関しては患者さんの状態に応じて、徐々に松葉杖などを使った歩行を始めます。歩くときの痛みがなくなってから、股関節を動かす可動域訓練や筋力訓練を開始します。
典型例の場合、4週間~6週間でジョギングなどの軽い運動を再開することができ、2~3か月後にはスポーツ復帰できることが一般的です。
骨癒合が不十分で筋力が低下している状態のときは、再発や悪化する可能性があります。主治医やリハビリテーションを行う医療者の指導を受けながら慎重に行っていく必要があります。
以上となります。
いかがでしたか?
前腸骨棘裂離骨折の場合はX線写真やCTで診断がつくことが多いのですが、骨が剥がれていない場合は不全骨折の有無をMRIで判断することもあります。
また、X線撮影撮影する場合は骨盤を撮影するので比較的に撮影条件は高くなります。斜位の場合は撮影条件が過剰になると腸骨棘がとんでX線写真上で見えなくなることがあるので注意が必要です。