第9回ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト 第1弾 ―虫垂炎の画像診断―


記事の監修医師
【略歴】
熊本大学医学部卒業
【資格/役職】
放射線診断専門医 医学博士
株式会社ワイズ・リーディング 代表取締役兼CEO
医療法人社団 寿量会 熊本機能病院 画像診断センター長
熊本大学医学部 臨床教授
放射線技師の高石です。
第9回ウェブラジエーション勉強会へご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
今回は、勉強会の内容をダイジェスト版としてご紹介していきたいと思います。
第1弾は「虫垂炎の画像診断」についてご紹介します。
放射線技師の皆様は、日頃の業務で遭遇する可能性が高い症例だと思います。
ぜひ最後までご覧ください。
症例①
50代 女性 急性腹症 イレウスの疑いで造影CTまで施行されています。
単純CT


骨盤内の小腸に拡張と腸液の停滞が見られます。イレウスを疑うような二ボーはありません。
造影CT検査

虚血変化はありません。


この段階で何が考えられるでしょうか?
臨床症状として臍上部当たりに痛みがあり、その後症状が増悪したとのことです。
臍上部の痛みとは急性虫垂炎で初めに痛みが出てくる部位です。

その後、右下腹部に痛みが移動してきます。今回臍上部の痛みという臨床情報を重視されておらず虫垂炎という考えに至りませんでした。
骨盤内の小腸の拡張から麻痺性イレウスや腸炎などを疑うというレポートでしたが、主治医の方から虫垂について意見が欲しいということで再読影の依頼がありました。
そこで虫垂を詳しく観察していくと

再度確認すると骨盤内に腫大した虫垂様の所見が見られ、骨盤底部に盲端像を認めます。
内部に気泡と液体が見られあたかも腸管のように見えるため急性虫垂炎の指摘ができませんでした。
このように急性虫垂炎は非常に指摘が難しいことがあります。

今回の症例は造影CTまで施行されており、臨床的にも臍上部の痛みということで虫垂炎も疑っていたと思われます。
今回は読影段階でそのメッセージを拾い上げることができず腸管所見のみに意識がいってしまい急性虫垂炎を見落としてしまった症例になります。
虫垂炎について
虫垂炎は臨床上でよくある症例です。
急性腹症の半分近くは急性虫垂炎が占めると言われています。
臨床的には急性虫垂炎を疑う場合は痛みがどのように変化するかが一つのポイントです。初めに痛みが出る部位は臍の中心に痛みが出ることが多いです。その後時間をかけて徐々に痛みが右下に移動していくと言われています。
よく使われるのが「マックバーニー点」(右上前腸骨棘と臍部を結んだ線の遠位1/3部分)で。ここの痛みがある場合は急性注意炎を疑われます。その他にもランツ点・モンロー点・キュンメル点などの部位も急性虫垂炎の場合に痛みが出現すると言われています。

臨床的にはこれらの点での圧痛がある反跳痛(ブルンベルグ兆候)、筋性防御がある場合に急性虫垂炎を疑う臨床所見となります。
CT所見

CTでは通常は虫垂は6㎜以下とされています。
虫垂が7㎜以上の拡張は虫垂炎を考えます。また壁肥厚や造影CTで虫垂の壁に造影増強効果があれば急性虫垂炎を疑う所見であり、また虫垂周囲の脂肪組織に浮腫様変化があれば急性虫垂炎の可能性を疑います。よく言われるのがdirty fat sign(ダーティファットサイン)ですが、これは周囲の脂肪組織の炎症波及しているという用語であり使うと便利です。
その他の所見としては、腸管穿孔した場合はfree air が出現したり、虫垂炎の原因となる虫垂石があります。特に虫垂石があると穿孔したり壊死性虫垂炎の原因となることもあると言われています。
虫垂炎は周囲の臓器に反応が及ぶことがあり、よくあるのは虫垂炎で炎症が腹膜までおよび腹膜炎をおこし小腸にも炎症を起こし麻痺性イレウスを起こすことがあります。
鑑別診断
腸炎・大腸憩室炎・腸閉塞・尿管結石、その他の婦人科疾患などがあります。
特に大腸憩室炎か虫垂炎かで臨床的に診断に苦慮することがあります。
大腸憩室炎は非常に多い疾患で、画像検査でしっかり鑑別することが大切になります。
治療
炎症自体が軽度であれば抗生剤による保存療法が選択されます。
穿孔や膿瘍形成が疑われる場合は緊急手術も検討されます。ただ穿孔して周囲に膿瘍があると術操作が非常に難しくなるのでその場合は抗生剤で膿瘍を抑えてから手術となり入院期間が長くなることもあります。
ですので急性虫垂炎が疑われたら穿孔する前に抗生剤や外科的に対処することが重要になります。
虫垂炎のグレード分類
臨床的にはアルバラド分類が使われています。
痛みの移動や食欲不振・悪心・嘔吐などを加算して7点以上だと可能性が高いと判断されます。

病理学的グレード分類
病理学的には単純虫垂炎・化膿性虫垂炎・壊疽性虫垂炎・穿孔性虫垂炎と分類されます。

CTでの虫垂炎の分類
CTでも同様に分類されます。
Grade1~3に分類され、軽度はカタル性と言われ軽度の炎症で穿孔のリスクは低いとされています。
中等度は蜂窩織炎性虫垂炎です。これは虫垂が腫大し壁肥厚が見られます。
重度は壊死性虫垂炎です。穿孔や膿瘍を形成している段階になります。

臨床的重症度分類

なぜ虫垂炎が起こるかというと、まず直接起こる場合の1次性虫垂炎とほかの疾患から虫垂へ炎症が波及する2次性虫垂炎があります。
1次性虫垂炎は粘膜下リンパ濾胞が過形成するもので、粘膜下にあるリンパ濾胞が過形成すると虫垂を閉塞してしまいます。あるいは糞石で閉塞してしまう場合です。いずれも何らかの原因で虫垂内腔が閉塞されると虫垂内腔に粘液が貯留してそこに細菌が繁殖し、粘液が化膿します。化膿した粘液が長時間停滞すると内圧が上がりリンパ流が障害され、虫垂の壁に浮腫が出現します。この段階がカタル性虫垂炎になります。
さらに内圧が上がると静脈還流が障害され、虚血状態(out flow block)になり血流うっ滞を起こし細菌が虫垂壁まで広がり蜂窩織炎性虫垂炎となります。そうするとここに細菌が繁殖するので内圧が高まり、動脈血流も障害され壊死を起こし、最終的には虫垂に穿孔してしまいます。
虫垂炎の診断
虫垂炎の診断は心窩部から右下腹部に圧痛点が移動していく臨床症状や超音波も虫垂炎の診断に有効です。しかし虫垂が盲腸の裏側に移動すると超音波での観察が難しくなります。その場合はCTで観察することが必要になります。
さらには穿孔すると横隔膜下に膿瘍を形成することもあるため広い範囲で腹腔内の観察が必要でCTが効果的になります。

画像診断のポイント
1.虫垂の大きさが7㎜以上
2.虫垂壁が造影される
3.周囲の脂肪組織の濃度が上昇しけば立つdirty fat sign
これらが診断のポイントになります。
場合によっては手術が適応されますが、軽度の場合は抗生剤で対応することがあります。
症例②
80代 女性
夕方食欲なく食事せず入眠。次の日、体がキツく自分では起き上がれなくなった。意識レベル低下はなし。右下腹部痛(+)
既往歴:腸憩室炎 パーキンソン病

胸腹部CTが施行されました。
虫垂炎を見つけるポイント
まず腸管周囲の脂肪組織を見ます。腸管自体もそうなんですが、腸管に炎症がある場合は周囲の脂肪組織に浮腫があると強い炎症が疑われます。

今回の症例では回盲部周辺の脂肪組織の輝度の上昇・毛羽立ちがあることから回盲部付近に強い炎症があると考えられます。なので回盲部を中心に観察していきます。軽度の虫垂炎であるカタル性虫垂炎の場合はこの脂肪組織の輝度の上昇がないので見落としやすいのですが、今回のように強い炎症の場合は脂肪組織の輝度の上昇・毛羽立ちを見つけやすいと思います。
では、軽度の炎症であるカタル性虫垂炎ではどうでしょう。
脂肪組織の輝度の上昇がないため特定が難しくなります。
その場合は、解剖学的に考えて観察していきます。
まず上行結腸を尾側に追いかけていきます。
上行結腸というのは肝湾曲から右の腹壁に沿って尾側に存在しています。
これを尾側まで観察していくと

必ず回盲部・終末回腸(回腸の末端)があります。盲腸はこれより尾側に必ずあります。
つまり回盲部・終末回腸(回腸の末端)を探し出し、その部位より尾側の盲腸部につながる鉛筆用の管状構造を探すと良いです。
中には炎症が少ない(脂肪組織の輝度の上昇がない)症例もあると思います。
その場合は虫垂の腫大(7㎜以上)を見ていきます。内腔が拡張していたらいいのですが、内腔がなく壁の肥厚が7㎜以上あるとカタル性急性虫垂炎を疑うと良いと思います。
このようなときは主治医に虫垂炎の腫大があることを伝え、「臨床症状を確認ください」と伝えると良いです。
造影CT
造影CTはすごく有効な手段になります。
単純CTで虫垂炎がはっきり指摘できない場合、造影CTを施行することで虫垂の炎症が浮き彫りになることがあります。
ただし造影剤を使う検査ですので単純CTに比べ侵襲性が高くなり、アナフィラキシーなどの副作用の注意が必要になります。
その他にも多方向からの観察も非常に重要になります。
冠状面などのMPR画像の作成も大事になります。

虫垂の冠状断MPR
以上をふまえて今回の症例の所見ですが、

虫垂の腫大と壁肥厚を認めます。
周囲脂肪組織の浮腫像を認め急性虫垂炎が疑われました。
その他、虫垂石の有無も指摘します。
虫垂石があると抗生剤での治療しても再発する可能性があるので外科的処置も考慮に入れる必要があるからです。
まとめ
