肩関節脱臼


記事の監修医師
【略歴】
熊本大学医学部卒業
【資格/役職】
放射線診断専門医 医学博士
株式会社ワイズ・リーディング 代表取締役兼CEO
医療法人社団 寿量会 熊本機能病院 画像診断センター長
熊本大学医学部 臨床教授
放射線技師として活動している高石です。
画像レッスンとはあらゆる画像をみながら、見落としてしまいそうな症例や画像からみられる診断についてを学んでいただく放射線技師・医師やそれを目指す人たちへのまなびの「場」です。
こちらの画像をご覧ください。
症例
52歳 男性転倒し、肩の痛みと変形を訴え救急外来受診された方です。

何か異常を指摘できますでしょうか?
ちなみに正常の方のレントゲンではこのような画像になります。

いかがでしょうか?
一目瞭然ですよね。
上腕骨頭の位置がずれていることがわかります。

肩関節脱臼と言われるものです。
肩関節脱臼
・上腕骨の骨頭関節面が、肩甲骨の関節窩からはずれた状態。
・非常に頻度の高い脱臼のひとつで、習慣性になりやすい(若年者は50%以上)。
・上腕骨骨頭の脱臼した方向により、前方脱臼、後方脱臼、下方脱臼、上方脱臼に分類されます。
・実際に遭遇するのは、前方脱臼が99%と言われており、後方脱臼は非常に稀です。
・腋窩神経を損傷しやすい。
なぜ腋窩神経の損傷を起こしやすいかというと、この腋窩神経は上腕骨頭を腋窩から入って後ろを回ってまた前方に来ます。つまり上腕骨頭に一番密着した神経になります。ですので肩関節脱臼で上腕骨頭の位置がずれるとこの腋窩神経が損傷しやすくなります。

肩関節脱臼の症状
肩関節脱臼が発生すると、以下のような症状が見られます。
- 肩の動きに制限がかかる
- 肩に激しい痛みを感じる
- 肩が変形している
- 肩や腕、指にしびれを感じる
肩関節の画像診断
肩関節脱臼の診断には、問診、視診、触診、レントゲンやCT検査・MRI検査などが用いられます。レントゲンでは、脱臼の有無や骨折の有無、脱臼した方向を確認します。
肩概観正面像と肩TureAP像(斜位)で脱臼を認める場合は、追加で肩甲骨軸位の撮影も追加すると脱臼方向がわかります。

上腕骨頭が関節窩(青)のどの方向に位置するかで脱臼の方向が確認できます。CT検査では骨折の有無や骨傷の有無を確認します。
また、脱臼を起こすことで2次的に起こる損傷があります。それがヒル・サック損傷とバンカート損傷と言われるものですが、どういうものかというと
ヒルサック損傷は、上腕骨の陥没骨折で、上腕骨頭が肩甲骨関節窩にあたって損傷を起こすものです。
バンカート損傷は、上腕骨頭が肩甲骨関節窩に当たり肩甲骨関節窩の関節唇が剥がれ落ちるものです。

これらの損傷はレントゲンでも観察できますが、CTやMRIの方が観察しやすいです。

MRI検査では骨傷の有無の他に周囲運動器の損傷の有無を確認します。

左:T1強調画像、右:脂肪抑制併用プロトン密度強調画像。
黄矢印でヒル・サック損傷と周囲組織の浮腫像を認めます。
赤矢印でバンカート損傷と関節唇の浮腫像を認めます。特にバンカート損傷ですが、反復性肩関節脱臼を起こす原因となります。
肩甲骨肩関節窩は上腕骨頭がずれないように上腕骨頭を支えているのですが、バンカート損傷によりこの部位(前方関節唇)の機能不全が起こると肩甲骨関節窩が上腕骨頭を抑えれなくなるので再び脱臼を起こしやすくなります。
こうなると寝返りをするだけで脱臼を起こしたりします。
特にスポーツ選手の場合はちょっとした動作で脱臼を起こしやすくなりますので手術が必要になります。
肩関節脱臼の治療
治療法としては、以下の方法があります:
- 整復:脱臼した関節を元の位置に戻すこと。
- 固定:整復後、肩を固定して安静にすること。通常、3~6週間程度の固定期間が必要です。
- リハビリ:固定が外れた後、肩の筋力を回復させるためのリハビリを行います。
手術:反復性脱臼や重度の損傷がある場合には、手術が必要となることがあります。
手術は関節鏡で行います。
肩に約1センチの穴を3カ所ほどあけ、光ファイバーと高性能カメラが入った関節鏡などを挿入し、傷ついた関節唇を糸付きの小さなネジ3、4本で肩関節の受け皿に縫いつける手術を行います。術後の再脱臼率はスポーツの種類や病院などで異なりますが、3%ほどでほぼ全ての選手が競技に復帰できると言われています。
予防と再発防止
肩関節脱臼の再発を防ぐためには、適切なリハビリと筋力トレーニングが重要です。特に、肩のインナーマッスルを強化することで、関節の安定性を高めることができます。
以上が肩関節脱臼についてのお話でした。
肩関節脱臼は脱臼の中でも割と出会う症例だと思います。
レントゲン検査では肩甲骨軸位の撮影を主治医に促したり、CT検査の検査ではヒル・サック損傷とバンカート損傷がわかりやすい3Dを作成したり、MRI検査ではヒル・サック損傷とバンカート損傷はもちろん前方関節唇が細かく観察できるように薄いスライス厚で高分解能に撮影をすると良いかもしれません。