第10回ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト 第1弾 ― 気腫性腸炎疑い―

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記事の監修医師

中山 善晴

【略歴】
熊本大学医学部卒業

【資格/役職】
放射線診断専門医 医学博士
株式会社ワイズ・リーディング 代表取締役兼CEO
医療法人社団 寿量会 熊本機能病院 画像診断センター長
熊本大学医学部 臨床教授

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放射線技師の高石です。

第10回ウェブラジエーション勉強会へご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

今回は、勉強会の内容をダイジェスト版としてご紹介していきたいと思います。

第1弾は「気腫性腸炎疑いの画像診断」についてご紹介します。

放射線技師の皆様は、日頃の業務で遭遇する可能性が高い症例だと思います。

ぜひ最後までご覧ください。

症例1: 気腫性腸炎疑い

  • 患者情報
    40代男性。MRSA腸炎、十二指腸潰瘍等にて入院中。
    下痢が持続していたが本人希望にて退院。
    退院した日の夜8時頃より胃の痛みが強くなり、救急を受診され採血にてPアミラーゼの上昇を認めたため、
    腹部臓器に炎症等がないかの確認目的でCTの依頼がありました。

胆嚢の腫大を認めます。
入院中の絶食による影響と思われます。
その他はこの画像からは指摘できません。
ここで階調を変えてみます。
骨条件に近いような階調です。

軟部条件と比較します。

左の画像が、軟部条件でのCTのコントラストになります。
こうやってみると、上行結腸と S 状結腸周囲に、気腫を認めます。
軟部条件CT画像で見ると気腫の観察が難しいのかなというところの症例になりました。
当直時の症例で担当した技師は撮影後すぐには気づくことができず、読影医が出勤されたときに指摘されたという症例です。

 所見

上行結腸及びS状結腸周囲に壁内気腫を認め、またfree airも認めています。
気腫性壊死性腸炎の否定のために造影CTをお願いしますとなっています。

気腫性壊死性腸炎とは

腸管壁内にガスを含む多発性嚢胞が形成された状態で、腸管気腫症や嚢状腸管壁気腫とも呼ばれます。
多くは無症状であるが、腹部膨満感、腹痛、下痢、便秘、吐き気、嘔吐、血便などの症状が現れることもあります。
腸管虚血や腸管壊死を伴う場合は 強い腹痛や腹膜刺激症状など急性腹症として重篤な症状を呈することがあり、腸管虚血~壊死の判断には造影検査が必要です。

重要ポイント

・ウィンドウ条件の重要性: 目的・疾患に応じてウィンドウ条件を調整することの必要性。「軟部条件で見ると実質臓器は観察でしやすいが、腸管になるとちょっと難しいのかなというところの症例になりました。」

具体的に見てみます。

左上が当院設定の腹部条件。
右上が腸管全体を見るときに私案で合わせた条件です。
あとは肺野条件と骨条件になります。

私が合わせた条件で腸管は、観察できても腸管壁内の気腫などは観察できませんので肺野条件や骨条件くらいさらにウィンド幅を広げてあげると観察しやすいかと思います。
今回は腹部の症例でしたが腹部に限らず、目的部位に合わせたウィンド条件で観察することが大切になります。

報告の意義

中山先生のコメント

この時の観察対象というのは「free air」になります。
腹腔内の遊離ガスを観察するためのウィンド条件設定が望まれます。
重篤な場合は腸管が破れて遊離ガスが腸管から出ているという状況になり、それにほぼ類似しているということは、そういう風な状況を見逃してしまうという風なところでもあるわけなんですね。
あの悩ましい のがあの消化が穿孔・破れた場合はやっぱかなりに腹膜刺激症状があって腹痛も強く出ます。そういう風な臨床症状があれば、消化の穿孔を疑い、このような条件で観察するかもしれないが、今回の症例では臨床症状がほとんどないんですよね。そういう風な症状がない状況において、こういう風な気腫を見るような、条件設定をして見ることが可能かどうかというところはあります。やはり練度の高い・経験値のある技師じゃないとなかなかそこまでの調整して画像を出すことは難しいのではないかという気はしてます。
膵炎を疑ってるっていう状況で、実質臓器に合わせたウィンド設定でやっていってる時に、こういう風な腹腔内の遊離ガスを見るような条件設定に合わせて観察するというのがやれればベストなんでしょうけど、実際の臨床の中でそこまでやれるでしょうか。
症状があれば腹膜刺激などの症状があればウィンドを合わせて観察すると思いますが、本人は症状なくPアミラーゼが高いということで膵炎を疑うという状況の中で、ここまで見れてるか。所見としては目立つ。だから上行結腸・S状結腸周囲に広い範囲で気腫がある。
所見としては結構は強いので、これで帰宅させていいのかどうかっていう風なところになってくるかなと思います。

ガイドラインにも消化館穿孔を疑う所見であれば報告しなさいっていうのがあるので、これは報告しないといけない症例になります。
ちなみにもしこれ本当に、腸管の壊死性腸炎・壊死性気腫症とかだったらかなり重得な症状が出てくるわけです。ところが患者さんは無症状である。そこが画像所見と臨床症状との解離があるという時に、もしかするとこのような腸管気腫症を起こしてるんじゃないかと思い出してもらうといいのかと思います。

このような症例は多く、PCI( pneumatosis cystoides intestinalis)腸管嚢腫様気腫症というがあって、 続発的 にも原発的にも起こってくるし 、いろんな病気の後に起こることもあるんですよね。 実際に腸管が虚血で壊死を起こすこともあるけど、あるいは膠原病なんかがあって、線維化が非常に強い人にちょっとした亀裂が腸管にでき、一気に腹腔内に空気が広がるということが結構あります。ステロイドを飲んでいる人とかでもこういった現象って起こることがあります。そういうことがあるということを知っておくといいかなと思います。

以上、腸管気腫症についてご紹介しました。

他の施設で、「他にもこんな設定方法があるよ!」などありましたら教えていただけると嬉しいです。ありがとうございました。