磁気共鳴医学会 〜前立腺MRI〜
ラジエーションジャーナル編集部の林です。
9月22日(金)〜24日(日)で開催された第51回日本磁気共鳴医学会大会に参加しました。
日本磁気共鳴医学会大会とは、MRI検査を愛して止まない診療放射線技師や放射線科医が多く参加することで有名な、非常にマニアックな学会です。
取り上げられる内容も、、臨床的な講演(例えば医療安全の話や患者さんのポジショニングなど)からラットを使用した最先端技術を駆使した治験的な研究発表と多岐に渡ります。
今回も例年同様、ハイブリッド開催のため、ウェブ参加によって様々な講演を視聴することができましたので、3日間視聴した内容の中で、最も興味深い内容をピックアップさせていただきシリーズとしてご紹介したいと思います。
第1回目は、「近年の前立腺MRI事情」についてご紹介したいと思います。
今年の学会、教育講演やシンポジウムなどで複数取り上げられていたテーマが、
「前立腺」についてです。
「前立腺」については、画像診断ガイドライン2021によると、
・3.0T-MRIによる適切な条件での撮像
・経験豊富な放射線科医による画像評価
・MRI画像をガイドとした生検に基づいた病理診断
この3つの全ての条件が可能な施設に限り、前立腺MRI検査の造影手技を省くことができると提唱されました。
しかしながら実際には、臨床でMRI検査をしてみると、「ダイナミック造影検査の早期像にて前立腺がんの評価は、不可欠である」という意見が多いのが現状です。
前立腺には、生命予後に関わる癌「臨床的有意癌」と生命予後に関わらない癌「臨床的非有意癌」の2種類があります。
この2種類をMRI画像で見分けるには、「Prostate Imaging and Reporting and Data System ;PI-RADS」と言われる5段階のカテゴリー分類があり、その過程の検査が必要です。
ダイナミック造影検査をしないと、5段階評価の中の有意癌か非有意癌か区別がつけられないカテゴリー3の評価が、非常に多くなるため、実際の臨床で泌尿器科医が、判断に困ったという事例もあります。
そのため、明白な判断を行うためには、画像診断ガイドラインに沿ったっとしても、MRI検査での見分けが非常に難しい判断になってしまうため、判断ミスが起こり得る可能性も出てきてしまいかねないため、非常に論点が難しい問題です。
*PI-RADSスコアはMRI画像をもとに5段階で癌らしさを判定
(1:がんの疑いは極めて低い、2:がんの疑いは低い、3:どちらとも言えない、 4:がんの疑いがある、 5:がんの疑いが強い)
造影手技を省いた単純検査Biparametric MRI(bp-MRI)は、「高分解T2強調画像」と「拡散強調画像;DWI」と呼ばれるこの二つの画像コントラストが診断の肝となります。
特に、DWIは特殊な撮像シーケンス(配列)で、前立腺の後方に位置する直腸の影響を大きく受けます。
検査時、直腸内にガスなどが存在することにより、DWIの画像劣化を招きます。
前立腺辺縁など臓器と臓器の境界の場合は、読影が苦手な領域なので、その領域の有意癌の評価は非常に難しいのです。
診断に大切なシーケンスであるDWIは、患者さんの体内環境に大きく依存しているのため、凄く不安定でもあり、造影ダイナミック検査が必要という根拠に基づいた話は、色々と上がっていました。
以下に、単純検査(bp-MRI)での評価が難しいケースをまとめてみました。
・DWIでの評価が困難な場合
・解剖学的に評価が難しい部位
・小さな病変
・T2WIどDWIで微妙な病変
・精嚢腺浸潤の評価
・前立腺癌術後再発の評価
撮像技術の進歩により、前立腺がんの診断能は向上を続けています。これは、患者様にとっても医療施設側にとっても大きな一歩です。
しかしながら、画像診断を行なっている我々の視点から考えた場合は、上記の理由で、2021年ガイドラインで推奨された単純検査(bp-MRI)では、診断の限界があるのも事実悩ましい点です。
今回は、前立腺癌検出のセーフティーネットとして、造影MRIの有用性を正しく理解し、
臨床で対応することの大切さをマジマジと実感しました。
引用;防医大誌(2019)44(2):63-70前立腺 MRI ─ その臨床的意義 ─