若年者の単関節炎
みなさん、こんにちは。
ラジエーションジャーナル編集部・放射線診断専門医の中山です。
今回の画像レッスンは、若年者の単関節炎をテーマに、実際の症例画像に基づいてご説明していきたいと思います。
日々の生活の中で、身体の不調や違和感を感じた時など、ぜひとも参考にして診察時の判断材料になれば大変光栄です。
さて、皆さんの中には、スポーツや競技をしてる時にちょっとした身体の痛みや不調、異変などを感じることなど思い当たることはありますでしょうか?
そういった時、大方大事ではないと思ってしまったり、ただの成長痛かもしれないと自己判断や勘違いをしてしまうことがあるかと思います。
実際に、私自身も学生時代などそのような経験が、多々ありました。
今回は、膝を痛めてしまった長距離選手について、お話ししていきたいと思います。
この画像は、彼の左膝関節のMRI画像とX線画像です。
彼は、14歳の男性で長年長距離ランナーとして選手を続けていましたが、ある日突然、左膝関節に痛みを感じてしまい、近くの病院にて診察を受けました。
当然、その際は、通常の診察ではX線検査、いわゆるレントゲン写真での検査を行い、
特段、異常は見つからず、ただの捻挫や関節痛などではないかということで診察が終了しました。
こちらが、その時のレントゲン検査の画像になります。
彼自身も、診察後安心し、しばらく経過をみていましたが、再度1か月経っても、痛みが続くため、再度受診し、今回は、MRI検査を行いました。
MRI検査でも特に異常は指摘されませんでした。
こちらがその時のMRI検査の画像です。
検査後、しばらくしても痛みは続き、痛みを紛らわして我慢しながら陸上競技を続けていたようです。
さらに半年経過し、それでも痛みの症状が持続してしまうため、再度診察を受け、X線検査(レントゲン検査)と MRI検査を行いました。
こちらがその時のMRI検査画像、X線画像です。
半年経ちその結果は、初回診察時と2回目の診察時の画像では見られない脛骨近位骨幹端病変※(けいこつきんいこっかんたんびょうへん)が、顕在化していたのです。
※脛骨の大腿骨寄りにできる骨に発生する腫瘍。骨が弱くなったり、関節の動きが妨げられ、周囲の組織が破壊されたりすることがあるため、問題が生じることがあります。
T2(ティーツー)強調像で、低信号と高信号部も散在している境界に明瞭な腫瘤性病変であることが判明したのです。
シーケンス表を見ると、「病変」のように等〜高信号を表している状態です。
辺縁部分には、骨硬化(骨が硬くなる)縁を反映するようにT2強調像で低信号のリム(特に円形のもの) を伴っています。
※T2強調像とは、液体を高信号(白くなる)で写します。
T1協調像とは、液体が低信号(黒くなる)で写します。
2回目の診察時のMRI検査の画像を再度慎重に確認したところ、同部位に小さな結節性病変が存在しており、5ヶ月間で明らかに増大していることが判明しました。
そして、今回受けたMRI検査では、病変の周囲の骨髄に広範囲に渡って骨髄浮腫が出現していることがわかりました。
全ての画像診断から彼の症状は、軟骨芽細胞腫という診断結果となりました。
神経芽細胞腫とは、若年者(特に15歳〜34歳までの間)に好発する希な良性骨腫瘍のことです。
脛骨近位骨端(膝から足首までの2本の骨のうち、太いほうの骨の近位側)に境界明瞭な腫瘤性病変であり、周囲に広範な炎症変化を伴うことがあります。
軟骨芽細胞腫の48%に周囲軟部組織の浮腫、43%に滑膜炎が合併します。
周囲の浮腫が強いので、悪性病変と間違われることがあり、慎重に診断をする必要があります。
腫瘍組織から、IL-1β、IL-6、IL-8、TNF-αなどのサイトカイン(図1)が合成され、cyclooxygenase-2の発現促進、prostaglandin E2による炎症が誘発されると考えられています。
この症例の痛みの原因としては、プロスタグランジンによる炎症の誘発があったものではないかと思われるわけですが、ここで注意すべき点としては、6ヶ月という短期間で、小さな良性病変が増大しているという点です。
※プロスタグランジンとは、簡単に説明すると、酸に由来する脂質代謝産物で炎症性の活性を含め、多様な組織に作用を及ぼすことを言います。
これもプロスタグランジンによる成長促進の影響かもしれません。
腫瘍性病変がサイトカインを産生し、炎症を惹起する現象は、類骨骨腫でもみられます。
臨床的には、関節炎として取り扱われることが多いのですが、時にレアケースとして、若年者の単関節炎の中には、軟骨芽細胞腫や類骨骨腫などの腫瘍性病変、腫瘍類似病変も混在することも可能性としてあるため、何らかの異変や継続的な痛みを感じる場合は、積極的にCT検査やMRI検査などを受けて経過を観察することもお勧めしたいと思います。少し難しい内容ではあったかもしれませんが、整形外科領域では、遭遇する確率も非常に高いと思います。
また、スポーツや競技に真剣に取り組んでいる若者にとっては、ほっといてしまうことで大きな命取りになり、大切な選手生命を断たれてしまうなんてこともあるかもしれません。
ちょっとした痛みであっても、継続的な痛みであっても、何かしらの身体へ不調や違和感などを感じた場合は、ぜひ参考にしていただき受診を受ける選択肢も視野に入れてもらえると幸いです。
今回は、若者の単関節炎についてご紹介いたしました。次回もお楽しみに!