ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト 第5弾ー腹部反跳痛ー

放射線技師の高石です。

第7回ウェブラジエーション勉強会へご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。

最終章となる第5弾は、「腹部反跳痛」についてご紹介したいと思います。

放射線技師の皆様にとっては、日頃の業務で遭遇するかもしれない症例かもしれませんので、ぜひ最後までお読みいただけると今後の参考になると思います。

症例

10日前、他院にて腸炎の診断を受け、処方された薬を1週間内服。

内服後により、痛みは消失しましたが、その後再度、腹痛が出現し、胃腸科を再診予定でしたが、夜間に痛みが増強したため、救急外来を受診されました。

下痢や嘔吐はなく、食事はあまり取れていませんでした。

既往歴:なし

受診時の腹部レントゲン画像です。

腹部立位X線画像

特に、レントゲンでの画像所見では、指摘ができなかったのですが、反跳痛があるため腹部単純CTを施行しました。

反跳痛とは?

腹部を圧迫した後、急に圧迫を取り除いたときに感じる疼痛のことで、別名:ブルンベルグ徴候(Blumberg’s sign)と言います。

この症状がある場合は、腹膜炎、特に多いのは、虫垂炎による腹膜炎を起こしている可能性です。
同じ腹痛の症状でも、お腹を押した瞬間に痛みがある場合を圧痛といい、この症状の場合は、胃腸炎や胆嚢炎(マーフィー (Murphy)徴候)であることが多いです。

反跳痛の原因としては、いくつか挙げられます。

第1に疑うのは内臓の炎症が腹膜にまで広がった場合の腹膜炎です。

まれに、外傷により発症する場合があります。(外部からの強い衝撃で、腹膜に支障をきたした場合)

また、化学的な刺激が伝わった場合に発症するおそれもあります。(内部から何らかの刺激物によって、腹膜に異常をきたす)

検査方法は、痛い部分を押してみて判断する触診によって判断することが通常です。

腹部を押して、離した瞬間に痛みが走るのが、この痛みの特徴でもあります。

反跳痛がある場合、緊急性の治療を伴うような病気や腹膜炎を発症している恐れがあるため、早期の治療を要することが必要になります。

※腹膜炎:お腹の中に細菌や毒素、消化酵素などが広がって起こる炎症のこと

反跳痛の確認方法

「反跳痛 → “腹膜炎”を疑う」

腹膜炎:お腹の中の表面を被っている腹膜が炎症する状態

  ・急性腹膜炎:急激に発症して放置すると命に関わるもの

  ・慢性腹膜炎:ゆっくりと進行し、腹水が貯まってくる

原因として消化管穿孔、子宮・卵巣・肝膿瘍、胆嚢炎の穿破、急性腹症以外(癌性腹膜炎、結核性腹膜炎など)

腹膜炎を疑うCT画像所見

・free air(腹腔内遊離ガス)、腸間膜内ガス

・dirty mass sign(糞塊の逸脱)

・大網や腸間膜の脂肪織濃度上昇

・腹膜・腸管壁(漿膜側)の壁肥厚

・腹水、膿瘍

・麻痺性イレウス

などがあります。

腹部単純CT検査の横断像画像です。

冠状断です。

みなさんは、この画像からどのような異常を指摘することができるでしょうか??

こちらの画像も合わせて確認してみることにしましょう。

赤枠で囲った部位(左上)が卵巣付属器領域ですが、この部位に腫大を認めます。

卵巣の腫大と考えられ、卵巣付属器の炎症が疑われました。

赤枠(下)はダグラス窩ですが、腹水を認めます。卵巣付属器の炎症によるものと考えられ、

臨床所見の反跳痛とあわせて考えると、卵巣付属器の炎症からの腹膜への炎症波及の可能性が、疑われます。

さて、話を戻しますが、今回の症例は、夜間の読影医がいない時間帯に発生しました。

担当した技師と救急医は、画像上で腹膜炎を指摘できなかったのですが、救急医の判断により念のため婦人科対応可能な病院へ転院することになりました。

しかし、良く観察すると、骨盤内背側の腹膜肥厚・浮腫様変化や骨盤内前面の脂肪組織の淡い高吸収域(毛羽立ち)を認めます。

腹膜炎を反映した画像所見と思われます。

腹部の炎症の有無をみる場合は、内臓脂肪組織の高吸収域の有無が大事で、内臓脂肪組織に高吸収域がある場合は、その周囲に何かしら炎症を認め、それによる脂肪組織への炎症波及を考えることができます。

今回の症例のように、若い女性の反跳痛は、虫垂炎のほかにも、性行為感染症などのPID(骨盤内炎症性疾患)や卵巣出血・異所性妊娠などの早急に治療を必要とする場合があります。

若い女性で反跳痛など明らかな臨床所見があるならば、消化器系だけでなく骨盤内の婦人科系に何かあるのではないかと疑って観察することも重要となります。

性行為感染症や卵巣出血は、生殖活動の豊富な年頃の方にはよく起こり、特に異所性妊娠は、場合によっては致命的なことになります。腹膜妊娠や子宮外妊娠だったり、若い女性の腹痛は婦人科系の疾患も念頭に置かなければなりません。

今回のような症例は、当直帯などの時間外に経験することも少なくありません。

画像診断だけでなく、医学所見や身体所見、血液生化学検査なども理解しておくことも必要になります。

5回にわたって症例紹介、いかがだったでしょうか。次回の第8回ウェブラジエーション勉強会は7月を予定しています。多くのご参加お待ちしております。