股関節骨折での3つの画像検査方法とは?実際の画像も紹介

放射線技師として活動している高石です。

画像レッスンとはあらゆる画像をみながら、見落としてしまいそうな症例や画像からみられる診断についてを学んでいただく放射線技師・医師やそれを目指す人たちへのまなびの「場」です。

「股関節骨折」という症状は、高齢者に多く見られる外傷性の骨折です。
股関節の骨折というと関節の骨折?となりますよね。でも実際は股関節を形成する骨群の骨折で、主に大腿骨近位端の骨折をいいます。
このコラムでは、大腿骨近位端骨折についてご紹介していきたいと思います。

股関節骨折の検査

股関節の骨折の多くはレントゲンで検査されます。レントゲン上、骨折がはっきりとわからなかったり、骨折の型を詳しく観察したい場合はCTやMRI検査が選択されます。

大腿骨近位部骨折

股関節の骨折ですが、大腿骨の股関節部分の骨折(大腿骨近位部骨折)のことをいいます。転倒や足をひねることにより大腿骨に力が加わり、骨折することが多いと言われています。

大腿骨近位部骨折は骨粗しょう症が多いこと、筋力低下や認知機能の低下により転倒しやすいことから高齢者に起こりやすいと言われています。

女性は閉経後、ホルモンバランスの問題などで骨粗しょう症になりやすく、大腿骨近位部骨折は、高齢者の中でも女性に多く起こります。

もちろん若い人でも交通事故や転落事故などで大腿骨近位部骨折を起こすことがあります。この大腿骨近位骨折は、骨折する部位によって以下の3つに分けられます。

大腿骨転子部骨折:大腿骨の転子部での骨折です。大転子や小転子の部分に骨折があるものをいいます。

大腿骨転子下骨折:転子部より末梢の骨折になります。

大腿骨頸部骨折:大腿骨頭の頸部の骨折です。

骨折の部位によって治療や手術方法が変わってくるのでこのように分けられています。

大腿骨転子部骨折

症例 76歳女性
縁側から庭に出る際に右側を下にするような形で転倒。痛みが強くほとんど動けなかったため、救急受診し、レントゲン検査となりました。
実際のレントゲン画像が下の画像になります。

右の大腿骨転子部の骨折と大転子、小転子の骨片転位を認めます。
大腿骨頸部から小転子下端の間に骨折があれば大腿骨転子部骨折と言われます。
この大腿骨転子部骨折は高齢者に多く、特に女性で起こりやすいと言われています。
レントゲン画像にて骨折線が明瞭に観察できることが多く、骨転位があることが多いのが特徴です。
大腿骨転子部は股関節包の外側にあり、周囲を血行のよい筋肉組織などに囲まれているので、骨癒合しやすく偽関節や骨頭壊死になる危険性が少ない骨折です。

大腿骨転子部骨折の場合は骨接合術などの手術が選択されます。

大腿骨転子下骨折

症例 73歳女性
骨粗鬆症で病院後、買物をし帰宅。帰宅後荷物を台所へ運搬中にスリッパにひっかかり、転倒し体動困難となり救急受診し、レントゲン検査となりました。
実際のレントゲン画像がこちらです。

右の大腿骨の転位があり、骨折があることがわかります。
転子部には骨の転位がなく小転子下端より下の転子下にて骨折を認めます。
大腿骨転子下骨折です。
レントゲン画像で骨折線が明瞭に観察できます。
骨転位があることが多く、交通事故や転落などの極めて強い外力の作用により生じる場合が多い骨折です。
外傷でその他の部位の骨折や他の外傷(頭部、胸部、腹部)を伴うことも多いので全身の観察に注意が必要です。
小児では強い外力で生じる骨折であるため稀です。交通事故や転落、虐待などが多い傾向にあります。
高齢者の骨折は転んだりつまずいたりするだけで骨折してしまうことが多く、高齢者の場合は持病(合併症)を多く抱えている方も多いため、全身の検査を行うことが奨められます。
大腿骨転子下骨折の場合はプレート固定や髄内釘などの手術が選択されます。

大腿骨頸部骨折

症例 76歳女性
自宅で転倒後、左股関節痛が出現し救急受診され、レントゲン検査となりました。
実際のレントゲン画像がこちらです。

左の画像が股関節正面のレントゲン画像です。右の画像は左股関節軸位画像です。
右の大腿骨頸部と違い左の大腿骨頸部が不鮮明で陥没しており、骨折線も認めます。
左大腿骨頸部骨折です。この大腿骨頸部骨折は転位が少ないことが多くレントゲン画像だけではわかりにくい時があります。
その場合はCT検査が選択されます。
こちらがCT検査の画像です。

レントゲン画像より骨折線がわかりやすく、骨折型が正確に評価できます。

では次の症例はどうでしょうか。

症例 91歳女性 
自宅のスリッパを履こうとして転倒。左股関節付近の痛みあり。皮下出血なし、腫脹なし。
実際のレントゲン画像です。

左の画像が股関節正面のレントゲン画像です。右の画像は左股関節軸位画像です。
何か所見は指摘できますでしょうか。
レントゲン上では明らかな所見は指摘できませんでした。
しかし症状が持続するためMRI検査となりました。
MRI画像がこちらです。

左の画像がSTIR像の冠状断、中央の画像がT2強調画像の冠状断、右の画像がT1強調画像の冠状断です。
いかがでしょうか。
MRI画像を観察すると、大腿骨頸部にSTIR像では高信号の線とT1では低信号の線を認めます。
この方も大腿骨頸部骨折になります。
レントゲン上では転位つまり骨のずれがないため骨折を確認することができませんでしたが、MRIを撮影すると転位が少ない骨折や不全骨折などレントゲンやCTでわかりにくい骨折でもこのように観察することができます。
この大腿骨頸部骨折ですが、大腿骨頸部は股関節の関節包の内にあります。骨の表面には外骨膜があり、折れた骨が癒合する時に重要な役割をしますが、関節包の内側にある大腿骨頚部にはこの外骨膜が存在しないため、この部分の骨折は非常に癒合しにくいという特徴があります。また大腿骨頚部や骨頭部は回旋動脈という細い動脈で栄養されています。頚部骨折をおこした時にこの動脈が損傷を受けると血が流れなくなるので、骨頭壊死を起こすことがあります。
大腿骨頸部骨折の場合は骨接合術やTHA(人工関節置換術)が必要になることが多いです。

以上が股関節骨折についてのお話でした。

いかがでしたか?大腿骨近位端の骨折といっても骨折する部位で治療や手術の選択が変わってきます。

近年ではCTやMRIで骨折部位を評価することが多くなりましたが、レントゲン撮影で骨折部位がわかりやすいように撮影することが望まれます。