脊髄梗塞を撮る|MRI画像の見方

みなさん、こんにちは。放射線技師の高石です。

先月、NHKの「おかあさんといっしょ」で「10代目体操のお兄さん」として活躍したタレントの佐藤弘道(55)さんが、脊髄梗塞を発症され活動を休止して療養に専念すると所属事務所を通じて発表されました。

研修会の指導に向かう飛行機内で体調を崩し、下半身まひで歩けなくなったことを明かしました。

この脊髄梗塞は、脊髄に酸素を供給する血管が閉塞し発症します。

脊髄梗塞の典型的な症状には、突然の背中の痛み、両側の下肢の筋肉の弛緩、感覚の喪失があります。

発生から時間を置かず、血液の流れをよくする治療をすることが効果的と言われています。

治療のゴールデンタイムと言われる3〜4時間以内に治療ができると完治の確率は高いといわれており、1週間以内の超早期リハビリが重要とされています。

この疾患は、そのまれな性質と急激な発症のため、多くの人にとって未知のものです。しかし、適切な知識と早期の医療介入によって、患者の生活の質を改善し、より良い結果を得ることが可能です。

そのため早期治療が大事になるのですが、早期治療を行うためには早期診断が必要になり、脊髄梗塞を診断するにはMRI検査が必要です。

私の勤める病院でも脊髄梗塞の患者さんをMRI検査することがあります。

今回は脊髄梗塞がMRIではどのように観察できるか、どのように撮影しているのかを実際の症例とともにご紹介させていただきます。

症例

86歳 女性

【主訴】

頸背部痛、両上肢のしびれ、両上肢の挙上障害、両肘屈曲障害、排尿障害

【検査目的】

頸椎性脊髄症の精査

【MRI画像】

左からT2強調画像矢状断、T1強調画像矢状断、T2強調画像水平断(C3~4レベル)

MRI画像を見るとT2強調画像でC3〜4レベルの脊髄内に高信号を認めます。

椎間板ヘルニアもあるようで検査目的にある脊髄症でも矛盾しない所見です。

私が勤める病院では頸椎MRIシーケンスは

1.T2強調画像       矢状断

2.T1強調画像    矢状断

3.3DT2強調画像 冠状断

4.T2強調画像     水平断(椎間板にあわせた)

5.T2FFE     水平断(椎間板にあわせた)

以上が頸椎の通常撮影メニューになっています。

しかし、排尿障害というのが気になりました。

T2強調画像で高信号になる疾患は他にもあり、腫瘍性病・脊髄空洞症・炎症・脱髄・代謝性疾患・脊髄梗塞・脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)などがあります。

その中で排尿障害をきたす病気は脊髄症のほかにも炎症・脱髄・代謝性疾患・脊髄梗塞・脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)などがあります。

脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)はT2強調画像矢状断で血管腔を思わせる蛇行したフローボイド(血流や脳脊髄液のように、流れている組織が画像上で無信号となる現象)はなかったので否定的で、その他の炎症・脱髄・代謝性疾患・脊髄梗塞が疑われます。

そこで拡散強調画像を追加撮影しました。

これがその時の画像です。

左からT2強調画像矢状断、拡散強調画像矢状断、ADCマップ矢状断
拡散強調画像を見るとT2強調画像で高信号であったC3〜4レベル(↑部位)の脊髄の高信号を認めます。ADCマップをみると同部位がやや低値になっているのがわかります。

画像上、脊髄梗塞もしくは脊髄炎の可能性が上がりました。

(脊髄梗塞や脊髄炎では必ずしも拡散強調画像で高信号、ADCマップで低値になるとは限りません。拡散強調画像で高信号がない、ADC値が低くないからと言って梗塞を完全に否定できるものではありませんので注意が必要です。)

あとは臨床症状と照らし合わせて主治医が判断されるのですが、脊椎炎では痛みを伴うことはなく、脊椎梗塞の場合は多くの場合痛みを伴います。

今回の患者さんは頸の痛みを訴えていたので脊髄梗塞の可能性が高いと思われました。

また、今回の患者さんでは祝日前日の診察時間を少し過ぎてから検査が始まりました。

脊髄炎・脊髄梗塞であれば治療内容が違うのですが、どちらにしろ早急な治療が必要となるため、救急医にすぐに報告し脊椎の専門医に連絡を取ってもらいすぐに確認してもらうと、脊髄梗塞と診断がつき治療を始めることができました。

祝日前であったため今回の検査で指摘できなかったら治療開始がおくれ患者さんの予後やQOLに影響するところでした。

皆さんも、もしこのような症例が来た場合は排尿障害の有無、疼痛の有無などの臨床症状を注意深く確認し拡散強調画像を追加で撮影すると良いのではないかと思います。

今回の検査では、時間もなく患者さんの痛みがあったため素早く検査を行うことが求められました。

ですので、拡散強調画像をEPI(echo planar imaging)法で撮影を行いました。EPI法で撮影したため、歪が多くゆがんだ画像となりましたが、時間が許せばTSE(Turbo Spin Echo)法で撮影すると歪も少なく撮影できますのでお試しください。

左がEPI法による拡散強調画像、右がTSE法による拡散強調画像

また、脊髄梗塞を起こした場合は椎体梗塞を合併することがあります。

椎体梗塞の場合はSTIR法や脂肪抑制併用のT2強調画像にて椎体が高信号に認められます。拡散強調画像でも高信号になります。

脊髄梗塞を疑った場合は、椎体も注意深く観察すると良いのではないかと思います。

今回は脊髄梗塞をMRI検査でどのように撮影しているかご紹介させていただきました。

放射線科医が常在している場合は放射線科医に相談できると思いますが、放射線科医が常在していない施設もあるとおもいます。

もし、このような症例がMRI検査で来られたらこのコラムを思い出していただき臨床症状に注意して拡散強調画像を追加で撮影していただけると幸いです。

体操のお兄さんこと佐藤弘道さんが患った脊髄梗塞ですが、残念ながら有効性が認められた治療法はありません。脳梗塞に準じた治療が行われ、可能なかぎり早くからリハビリテーションを開始する支持療法が行われます。

※支持療法とは、病気の根本的な原因を治療するのではなく、病状や症状を緩和し、生活の質(QOL)を改善するための治療法です。

リハビリを頑張っていただき再び元気に活躍する姿を見せて頂きたいです。