放射線診断医がレポートで使用する「疑い」表現について


記事の監修医師
【略歴】
熊本大学医学部卒業
【資格/役職】
放射線診断専門医 医学博士
株式会社ワイズ・リーディング 代表取締役兼CEO
医療法人社団 寿量会 熊本機能病院 画像診断センター長
熊本大学医学部 臨床教授
画像診断報告書では、さまざまな表現が用いられます。今回は「疑い」の表現についてお伝えします。
「〇〇が疑われる、〇〇の可能性がある、〇〇も否定できない」
このような文書をよく目にすることがあると思います。
放射線診断医が特定の疾患を想定してレポートを記載する際、疾患名を1)断定できるパターンと2)断定できないパターンがあります。
1)断定できるパターン
画像所見により明らかにその疾患を断定できる場合、臨床的に診断が確定している場合などに限定されます。例: 腎結石、脳出血など。あるいは病理学的に癌と診断が確定している場合など。
2)断定できないパターン
「〇〇が疑われる、〇〇の可能性がある、〇〇も否定できない」
以下の場合が該当します:
- a) その疾患が想定されるが、画像だけでは断定できない場合
- 癌のように病理検査で診断が確定されないと断定できない疾患。
- 認知症、膠原病、感染症のような画像だけでは断定できない疾患。
- b) その所見を示す疾患が複数想定され、特定の疾患に断定することが困難な場合
- 肺炎のようにみえるが、肺胞上皮腺癌、血管炎、肺胞出血などはいずれも似たような画像をみるので、断定できない。
つまり、「〇〇が疑われる」という表現には、a)、b)の2つの意味合いがあります。
a)のパターン
断定することはできないが、およそその疾患で矛盾する様子がないということであれば、他の鑑別疾患を挙げないことが多いです。
例: 画像的に「肺癌を疑います」とし、追加の鑑別診断は記載しません。
b)のパターン
特定の疾患に断定することができず、複数の疾患も想定される場合であり、このような場合は鑑別として「〇〇を疑います。△△、××などの疾患も鑑別に挙がります」というような表現を追加記載することがあります。
例:「肺炎を疑います。肺胞上皮腺癌、血管炎、肺胞出血なども鑑別に挙がります」
表現の信頼性について
過去に放射線診断医が使用する「疑われる、可能性がある、否定できない」などの表現について、どの程度の信頼性があるかをパーセンテージで明示しようとした試みがあったようです。
例えば、probable:≦100%、possible, contingent, incidental:~50%、improbable:0<など。
いずれも個人の主観に依存してしまい、客観的でないとの理由で、あまり広がらなかったと聞いています。
これらの表現は多くの場合、放射線診断医の個人の経験、考え方、あるいは信念などに基づくものであって、統一することが困難だと思います。
私の場合の表現基準
- 断定できる場合: 「〇〇として矛盾しない」、あるいは「疾患名のみを記載」
- 病理診断の結果がなく、最終的な確定診断を得られていない場合: 「〇〇の疑い」
- 診断の精度が半分以上(50~70%程度)もしくはそれより若干下がる場合: 「〇〇の可能性」。鑑別診断を追加記載する。
- 30%以下と思われるが、完全に否定はできない程度に可能性が低い場合: 「△△、××などの可能性がありますが、〇〇も否定できません」
以上、ご参考になればと思います。