第11回ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト Vol.2
第11回ウェブラジエーション勉強会の内容をダイジェスト版としてご紹介していきたいと思います。
Vol.2― 腹部外傷後CT―
高所からの転落により右側腹部を強打した22歳男性の症例が紹介されました。
症例
- 患者情報
20代男性。
自宅での作業中、脚立を並べてその上を移動しようとしたところ足を滑らせ転落。
その際脚立の一番上で右側胸部を打撲しました。
右側胸部痛、呼吸苦がありました。(SpO2:99%)
診察後、腹部CT単純検査が施行されました。
実際のCT画像です。

初期診断の難しさ
撮影された腹部単純CTでは、一見すると明らかな骨折や活動性出血、臓器損傷は指摘されませんでした。
しかし、血液検査の結果で肝酵素の上昇を認め、改めて画像を詳細に確認したところ、肝臓のS4領域にわずかな低吸収域(周囲より黒い部分・↓赤丸部分)が認められました。

こちらは造影CTの所見です。

受診から1時間後に実施された造影CTにより、肝S4に不整形の造影されない領域(血腫)が確認され、肝損傷と診断されました。
肝損傷とは?

肝損傷の分類

肝損傷の分類は表に示すとおりです。
被膜の連続性が保たれているか、裂傷しているか深さが3cm未満かそれ以上かで分類されます。
単純/造影CTの役割

造影CTにおける評価の要点
腹部外傷において造影CTを行う最大の目的は、治療方針の決定にあります。
血管外漏出(エクストラバゼーション)の有無
造影剤が血管の外に漏れ出している像があるかどうかを確認することが極めて重要です。
治療方針への影響
動脈性の損傷(血管外漏出)が認められる場合は、止血のためにIVR(血管内治療)などの緊急処置が必要となります。一方で、動脈損傷がなく状態が安定している場合は、保存的加療が選択されるなど、診断によって方針が大きく変わります。
撮影フェーズの重要性
動脈損傷を評価するための「動脈相」と、肝実質の損傷範囲を確定するための「門脈相」の2つのフェーズを基本とし、出血の広がりを確認するために「遅延相」を追加する場合もあります。
画像診断を困難にする要因と対策
腹部外傷の読影、特に単純CTでの判断を難しくする要因として、患者の体格(内臓脂肪の量)が挙げられています。
痩せ型患者の特性
内臓脂肪が少ない患者(本症例ではBMIが低い痩せ型)は、臓器間のコントラストが乏しく、臓器の輪郭や微細な出血が見えにくいという特徴があります。

window条件の最適化
わずかな濃度差を見逃さないためには、画像表示条件(ウィンドウ幅:WWとレベル:WL)の調整が不可欠です。肝臓を詳細に観察する場合、通常よりもウィンドウ幅を狭く設定することで、実質内のコントラストが強調され、損傷部位が浮き彫りになりやすくなります。

左上の表は当院のwindow条件です。
胸腹部CTのウィンドウ条件はWW300、WL25で表示してます。
右上の画像がそれにあたります。本症例の画像がこのウィンドウ条件です。
腹部だけの撮影の場合は、WW280、WL35で表示してます。
X線CT撮像ガイドライン(GALACTIC)によると
腹部撮影ではWW300程度、WL50程度、肝臓病変の撮影ではWW250程度、WL50程度を推奨されています。
右下の画像がWW250程度、WL50程度にあたります。
また、肝臓のみを観察する時はWWを200程度と狭めにすると肝病変のコントラストがつきやすいとのことでした。

左上は当院の腹部のW条件
右上はGALACTICの肝病変ターゲット時の腹部全体推奨されてるwindow条件、
左下はGALACTICの肝臓のみの観察時に推奨されてるWW200、右下はさらにWWを150と狭めてます。
左上の画像は肝内のコントラストがはっきりしない様に見えますが、WWを狭くすることでCT値のわずかな差が強調され、肝内のコントラストが強くなり、臓器の輪郭や出血を観察しやすくなります。
まずはWWが広い画像で全体像を観察し、その後臓器にあわせてwindow条件を調節して観察することも大切になります。
多角的な診断アプローチ
CT画像のみに頼らず、他の情報と組み合わせる「現場力」が重要です。
臨床情報と血液データ
外傷のエピソードや血液検査での肝酵素上昇といった情報は、読影の際の強力なガイドとなります。
超音波検査(エコー)の活用
エコーは血流評価(ドプラ)に優れており、痛む部位にプローブを当てることで、画像上の異常が外傷によるものか(炎症や痛みを伴うか)をリアルタイムで確認できる利点があります。
腹部外傷は、単純CTでは一見正常に見える症例が存在します。「臨床情報を踏まえた疑いの目」を持ち、「ウィンドウ条件を適切に調整」して画像を観察することが、見逃しを防ぐための鍵となります。
肝損傷に関しては、被膜化血腫や血性腹水が出ると急激に容体が悪くなることがあるので、初期段階での拾い上げが非常に重要です。
以上、腹部外傷後CT ”肝損傷” についてでした。
次回はイレウスの画像診断について投稿いたします。次回もお楽しみに~!