第11回ウェブラジエーション勉強会ダイジェスト版Vol.3― イレウスの画像診断―

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記事の監修医師

中山 善晴

【略歴】
熊本大学医学部卒業

【資格/役職】
放射線診断専門医 医学博士
株式会社ワイズ・リーディング 代表取締役兼CEO
医療法人社団 寿量会 熊本機能病院 画像診断センター長
熊本大学医学部 臨床教授

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特別セッション:イレウスの画像診断

イレウス診断の基本的な考え方

イレウスは救急疾患の代表格であり日常的に遭遇しますが、診断は非常に難しいのが現状です。診断においては、単に腸管が拡張していることを見るのではなく、「緊急性があるか」「血流障害(拒絶・絞扼)があるか」という視点が最も重要になります。

機械的イレウス: 物理的に詰まっている状態(もちなどの食事性も含む)。

麻痺性イレウス: 炎症や手術により腸管の機能が低下して動かなくなった状態。

絞扼(こうやく)性イレウス: 機械的閉塞に血流障害が加わったもので、極めて緊急性が高い。

イレウス(腸閉塞)の分類と緊急性の判断

機械的イレウス 物理的に腸管が詰まってしまう状態を指します。

  • 食事性イレウス: 例えば「おもち」などの硬い食べ物を飲み込み、それが消化されずに腸管の中で目詰まりを起こして、腸管が動かなくなるケースがこれに該当します。

麻痺性イレウス 腸管自体の機能が低下し、動かなくなってしまう状況を指します。

  • 原因: 腸炎や手術後の影響、あるいは虫垂炎に関連して腸の動きが悪くなることなどが挙げられます。
  • 緊急性: 一般的に重篤感はそれほど強くなく、緊急度は機械的イレウスと比較すると高くありません。

絞扼性イレウス 機械的イレウスに血流障害が加わった病態で、極めて緊急度が高い状態です。

  • 重要性: 非常に重篤であり、診断において最も優先的に「拾い上げる」必要があります

検査・観察のポイント CT検査などの画像診断を行う際は、以下の点に注目して観察を進めます。

  • 腸管の拡張: どこで詰まっているか(トランジションポイント)の確認。
  • 血流障害の有無: 腸管壁の肥厚や造影効果の低下。
  • 緊急性・絞扼の兆候: 絞扼(クローズドループなど)が疑われる所見があるかどうか。

単純CTにおける血流障害(絞扼)の見極め方

「血流障害があるかどうかに関しては、はっきり言って腸管が厚くなっているかどうかと、腸管の周りの脂肪組織が汚くなっている(浮腫を起こしている)かどうか、ここをしっかり押さえれば良いと思います。

厳密には造影CTを施行して評価すべきですが、夜間緊急時などでは、なかなか造影まで手が回らない、あるいは施行できないという状況もあるかもしれません。そのような場合にアバウト(単純CT)で見るならば、血流障害が起こった時の腸管の壁自体が、厚くなって浮腫のような状態を起こしてきますので、その所見があるかないかを重点的に確認すれば良いのではないかと思います。」

イレウス診断における「トランジションポイント」の重要性

イレウス(腸閉塞)の画像診断において、非常に重要視されるのが「トランジションポイント(閉塞起点)」の有無です。

トランジションポイントとは: 拡張した腸管を順に辿っていくと、ある場所でギュッと締められたように、腸管の径(太さ)が急激に変化している箇所に突き当たります。これをトランジションポイントと呼びます。

なぜ重要なのか: このポイントがあるかどうかは、治療方針に直結します。トランジションポイントが存在する場合、その閉塞を物理的に解除しない限り、イレウスの状態は改善(消失)しないためです。

読影の実際: 医師や技師は、画像の中からこの「急激な変化」を積極的に探しに行きます。これを見つけることで、機械的イレウスであることを確定させ、閉塞の原因(癒着、ヘルニア、腫瘍など)を特定する手がかりにします。逆に、この明確な変化点が見られない場合は、腸管全体の機能が低下した「麻痺性イレウス」などの可能性を検討することになります。


Closed Loopとは?

クローズドループというのは、腸管のループがどこか1箇所でギュッと閉じているような状態を指します,。

画像診断において、このようにループが閉じている所見があるということは、そこが『絞扼』を起こしているということを意味します。そのため、これが見つかった場合には、非常に緊急性が高いものとして『早めに判断した方がいい』と言われているわけです。

ワールサイン(Whirl sign)

腸管膜が渦巻き状に見える所見も、クローズドループを形成するような緊急性の高いイレウスで注意すべきポイントとして挙げられています。

イレウスにおける虚血・絞扼の判断基準

「腸管の壁に虚血が起きているという時には、やっぱり壁が厚くなる(壁肥厚)、浮腫、腹水が出ます。この3つはやっぱりしっかり抑えておきたいポイントです。

壁が厚いということと、読影医は必ず腸管を見る時には腸管膜や腸管の周りの脂肪組織を見ます。そこの脂肪に『汚い毛羽立ち』があるか、『もわもわ』しているかということが大事です。

そういうものがあれば、そこに炎症がある、あるいは血管内の液体が外部に漏れているかもしれないという風に疑います。

腹水があるということは、『かなりやばいぞ』と思うその手がかりと考えてもらっていいです。『壁が厚い』『脂肪が汚い』『腹水がある』のだったら、虚血や絞扼があるかもしれないと思ってもらえばいいです。

造影効果の低下というのは、造影(CT)をすれば分かります。ただ、造影ができる施設ばかりではないので、そこまではなかなか難しいかもしれませんが、そういったところも一つのポイントになります。

イレウス診断における画像最適化と患者背景について

 ウィンドウ条件の調整は必ず行ってください。ウィンドウレベルを変更・調整して観察するような癖をつけておいた方がいいです。よくあるのは、腹部の一般的なウィンドウ条件では脂肪と遊離ガス(フリーエアー)の区別がつきにくく、遊離ガスを見落としてしまうということがよくあります。なので、しっかり調整をして確認しましょう。

MPR(多断面構成)の再構成も可能であれば、イレウスを疑う時には行ってください。特にコロナル像(冠状断像)は解剖学的な位置関係が把握しやすく、非常に見やすいため、診断において特に重要になります。

それと、やはり患者さんの背景です。イレウスを診る時に読影医が一番注意をするのは、『手術をしたことがあるかどうか』です。

臨床情報に手術歴が書いてあれば癒着を疑います。実際によくあるのは、女性で子宮が見当たらないのに、臨床情報には何も書かれていないようなケースです。そういう時は『子宮全摘術をしているのではないか』と考えます。あるいは、腹壁に子宮がくっついているような所見があれば、『帝王切開をしたことがあるのではないか』と推測します。

このように、画像から過去の手術の痕跡(気配)を探すということも、イレウスの原因を特定する上で非常に重要です。何らかの臓器が足りないなどの痕跡があれば、その影響で癒着が起きているのではないかと疑うことができます。

その他、発熱があるのなら『腸管穿孔があるのか』『腸炎があるのか』といったことも疑います。そういった意味で、患者背景を確認することは、診断の思考を進める上でとても大事になってきます。

癒着性イレウスが非常に、実は臨床的に多い。多くの人がお腹の手術を受けているので、つい『癒着性イレウスじゃないか』と思いがちですが、そうじゃない時もあります。いつも『癒着』というバイアスを捨てるということは大事になります。

腫瘍によるイレウスということもあります。進行した大腸癌などでなることもありますし、あとはヘルニアです。鼠径部のヘルニアや、その他に『内ヘルニア』というものもあります。

内ヘルニアというのは、お腹の中の腸管膜に穴が開いているものです。腹膜が綺麗に覆われていることもあれば、一部膜が欠損していて、そこにポケットみたいに臓器が入り込む余地があるような、先天的な形成異常があることがあります。そのポケットの中に、偶然に腸管が入って張ってしまうと、そこからもう出られなくなってしまう……これを内ヘルニアと言います。

このように、様々な原因でイレウスが起こってくるので、背景にはいろいろな理由があるということを知っておいた方がいいかもしれません。

イレウス診断のプロセスと重篤化への流れについて

「これも一つのステップなのですが、実際にはMPR(多断面構成)やウィンドウ条件の調整を行ったり、その中でトランジションポイントが見つかったり、あるいはクローズドループやワールサインが見えたりすることがあります。

さらに最終的には、虚血を疑う付随する所見が目立ってくるといった、こうした段階を経てイレウスの状態を診断していきます。さらに病態が重篤化していく流れがこのような形で見えてきた時には、『緊急性が高まっている』と言えるわけです。

放射線技師はゲートキーパー

最初に気づいてドクターに報告するという役回りは、絶対に実際にあるので、そこに関してはイレウスに対してしっかり目を養っておく必要があります。

診断を正確にする必要はないけれど、『何が重篤か』『これちょっとやばくないか』というところを主治医に伝えてあげる。これだけでいいです

(例えば)それはヘルニアを見つければいい。見つけることができればそれでいいんですが、『ちょっと虚血っぽいよ』『これやばくないですか、腹水が出てます』というところに目を向ければいいのかなと思います。

症例①

80代男性 腹痛

「こちらは80代男性の腹痛の症例です。画像を見てすぐにお分かりいただけると思いますが、これはイレウスです。

特徴的なのは、腸管がかなり拡張しており、その中に水が溜まっている点です。これだけの水が確認できるということは、何らかの異常が起きているサインです。

ここで注目すべきは、いわゆる『エアフルイドレベル(鏡面形成)』です。これは専門用語で『ニボー(Niveau)』と呼ばれたりもしますが、水と空気の境界線が見えているということが非常に大事なのです。

この現象がなぜ起きるかというと、空気は入ってきているものの、腸管が動かないために水の上に空気が溜まってしまうからです。患者さんは、上から一生懸命に空気を飲み込んで、下の詰まりを押し出そうと頑張っているわけですね。

胃の中にある空気や、腸管の蠕動によって送り込まれた空気が流れ込み、このように水と空気の層が形成されます。これは決して感染症などが起こっているわけではなく、生理的に空気が流れ込んで詰まっていくという現象が画像として現れているのです。」

拡張腸管の同定(空腸か回腸か)

まず、画像を見てどのように判断するかという点ですが、骨盤部で腸管が拡張していれば「回腸」

上腹部であれば「空腸」であると判断しています。この症例では、空腸も回腸も両方同時にかなり拡張している様子が見て取れます。

また、大腸(直腸、S状結腸、下行結腸)はすべて潰れて閉じており、

拡張の主体は「小腸」であることがわかります。小腸であることの根拠として、アコーディオンのような細く狭いひだ、すなわち「ケルクリング襞」が確認できるため、小腸の拡張であると考えられます。

拡張の主体は「小腸」であることがわかります。小腸であることの根拠として、アコーディオンのような細く狭いひだ、すなわち「ケルクリング襞」が確認できるため、小腸の拡張であると考えられます。

撮影範囲の重要性(恥骨までの撮影)

腹痛のCT撮影において、必ず骨盤部の「恥骨」まで撮影することが極めて重要です。お腹だけで撮影を止めてしまうと、この症例のように重要な病変を見落としてしまう可能性があります。恥骨まで撮影することで、初めて「鼠径(そけい)ヘルニア」を指摘できるのです。

ヘルニアの分類と緊急性

鼠径部のヘルニアには、大きく分けて「鼠径ヘルニア」と「大腿(だいたい)ヘルニア」があります。同様な部位に発生するヘルニアですが、重症度が違います。

  • 鼠径ヘルニア: 手で押し込んで戻す(還納させる)ことができる。
  • 大腿ヘルニア: 鼠径ヘルニアよりも深い場所に位置し、基本的には緊急手術が必要な重症度の高い病態です。手で押し込んで戻す(還納させる)ことが困難な場合が多いのが特徴です。

本症例は、鼠径ヘルニアによって上部の小腸がどんどん拡張していった「機械的イレウス」の一例です。

虚血・循環障害の評価

この画像から「虚血や循環障害(絞扼)」を起こしているかを判断します。評価のポイントは以下の通りです。

  • 腸管壁の状態: 壁が腫れておらず、すーっとまっすぐで非常に綺麗です。
  • 周囲脂肪組織: 腸管の周りの脂肪組織も汚くなっていません。

以上の所見から、この単純CTの段階では「循環障害(絞扼)」までは疑われません。一刻を争うような超緊急事態ではありませんが、機械的イレウスであるということで外科の先生にコンサルテーションを行うべきレベルの症例であると言えます。

鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの鑑別と緊急性について

「先ほどお話しした、鼠径ヘルニア大腿ヘルニアについてですが、これらは質が全く違います。しかし、非常によく似た場所に出てくるのが難しいところです。

判別のポイントとなるのは『鼠径靱帯(そけいじんたい)』です。これは恥骨と腸骨(前上腸骨棘)を繋ぐ部分にある靱帯で、ご自身で腰骨の出っ張りと恥骨を触ったラインにあるとイメージしてください。

この鼠径靱帯よりも下の穴から飛び出しているのが『大腿ヘルニア』です。これは真のエマージェンシー(緊急事態)です。もちろん上の鼠径ヘルニアも緊急性はありますが、大腿ヘルニアの方がより重要で重症度が高い。鼠径ヘルニアなら還納(手で押し戻すこと)できる場合もありますが、大腿ヘルニアは一刻を争うため、すぐ外科に紹介しなければならないという難しさがあります。

鼠径ヘルニアには『直接鼠径ヘルニア』と『間接鼠径ヘルニア』の2種類がありますが、これらは(大腿ヘルニアに比べれば)すぐに命に関わるというほどではないという印象があります。

CT(横断像)で診断する際の僕なりの基準は、『大腿静脈』との位置関係です。

  • 大腿ヘルニア: 深いところにあり、大腿静脈に接している(あるいは触れている)場合は大腿ヘルニアと言っていいでしょう。

鼠径ヘルニア: 大腿静脈に触れていなければ、鼠径ヘルニアの可能性が高いと考えます。

もし夜間に、この深いところで大腿静脈に接するようなヘルニアを見つけたならば、『大腿ヘルニアの可能性があるので急いだ方がいいです』と当直医に伝えてあげてください。

少し踏み込んだ話になりましたが、すべてを覚える必要はありません。ただ、こうした『緊急性の違いがある』という感覚を持って画像を見ていただければと思います。

症例②

50代男性 腹痛

画像の初期印象と解剖学的判断 

「50代の男性、腹痛で来院された方の単純CTです。かなり激しい症状のようです。 まず画像を見ると、上腹部の腸管膜動脈から早い段階で分岐している領域は空腸です。

さらに下の方で枝分かれしてくるのは回腸になります。この症例で拡張しているのは、おそらく回腸の一部でしょう。

初見として、先ほども解説したエアフルイドレベル(ニボー)が認められます。腸管内の液体自体はそれほど汚くはなく、単純に溜まっているという印象です。」

血流障害(絞扼)を見極める3つのポイント

「ここで、イレウス診断において非常に重要な『血流障害(絞扼)』があるかどうかを、先ほどのポイントに沿って見ていきましょう。単純CTで拾い上げるべきポイントは以下の3つでしたね。

  • 壁の肥厚
  • 周囲脂肪組織の混濁(毛羽立ち・浮腫)
  • 腹水の存在 これらを念頭に置いてこの症例を観察することが大切です。」

トランジションポイントとCループの特定

「原因を特定するために、腸管の径が急激に変わるトランジションポイント(閉塞起点)を探します。この症例では、拡張した腸管を追っていくと、ある場所でキュッと閉じているのがわかります。その先に『Cループ(C型ループ)』と呼ばれるもので、腸管がぐるっと回って、入り口と出口が同じ1箇所でギュッと集約して閉じているクローズドループ(Closed loop)を形成しています。つまり、ここで絞扼が起きているということです。」

単純CTで抑えるべき3つのポイント

イレウスの重篤度を特定するために、先ほどの3つのポイントを確認してみましょう。

  1. 壁の肥厚: ここ、壁が厚くなっています。
  2. 周囲脂肪組織の浮腫: 腸管の周りの脂肪組織に浮腫があります。
  3. 腹水の存在: 腹水が出ています。

実は、最も分かりやすい手がかりは『腹水』かもしれません。骨盤内に腹水を見つけた時に、『何かあるぞ』と思って逆にそこから腸管を振り返って辿っていくと、こうした『やばい状況』の腸管が見えてくることがあります。

内ヘルニアのメカニズムと緊急性

この症例は男性ですが、例えば女性なら広間膜(子宮広間膜)などの欠損した穴に腸管がポコッと入り込み、ギュッと締まってしまうことがあります。そうすると、入り込んだ小さなループが閉塞し、そのせいで口側の腸管がどんどん張っていく……という状況になります。

これはおそらく骨盤内の内ヘルニアが原因となった、絞扼性イレウス(クローズドループ・オブストラクション)エマージェンシー(緊急事態)虚血(拒血)を起こして腸管穿孔に至ったり、命の危険に関わることもあります。

 最終診断と緊急性

「この症例の診断は、おそらく骨盤内の内ヘルニアを原因とした、絞扼性イレウス(クローズドループ閉塞)です。これは真のエマージェンシー(緊急事態)です。1日、2日と放置すれば、腸管は虚血から壊死、そして穿孔(穴が開くこと)へと至り、命に関わる事態になります。夜間の緊急時などで造影CTができない場合でも、単純CTで『壁の厚さ』『脂肪の汚さ』『腹水』の3点に意識を向けることで、こうした重篤な症例を確実に拾い上げることが重要です。

症例

60代女性
お腹のあたりをよく見ると、ここに『筋(線)』が入っているのが分かります。

これを見た時に、『以前に外科手術をやっているんじゃないかな』と推測することができます。

実際に骨盤の方を見ると、

手術の痕のような所見があります。手術歴があるとなれば、まず疑うのは癒着性イレウスです。あるいは、もし悪性疾患の既往であれば、再発に伴う癌性腹膜炎などが絡んでいるのではないか、という視点で見ていきます。

画像では、腸管が非常に拡張しているところがあります。

このあたりには、腸管が何かに『引きずられたような感じ』の所見が見てとれます。

拡張した腸管がぐっと来て、ここでぐるっと回って引きずられているような像です。周囲の所見を確認すると、脂肪組織にも少し浮腫状の変化があり、腹水もわずかに認められます。

判断はなかなか難しいところではありますが、手術の影響などによる癒着性イレウスではないかと考えられます。ただ、腹水が出ているので、もしかするとこの付近で循環障害を起こしている可能性も否定できません。そのため、『念のために造影(CT)をしたらどうですか?』という話になるような症例です。

結果として、この方は単純CTのみで診断されています。ぐるっと回ったC型構造のような『クローズドループ』がないこと、またトランジションポイント(閉塞起点)が重なっていないことなどから、絞扼性イレウスを形成するまでには至っていない、癒着性イレウスの一例であると判断できます。

なお、腹部単純写真などでよく見られる、水と空気が層を作る『ニボー』形成も認められる典型的なイレウスの像です。

症例④

60代女性 腹痛で来院

画像を見ると、回腸を中心に腸管がかなり拡張して、内容物(腸液)が停滞しているのが見て取れるかと思います。

このあたりは、腸液の中にガス(気泡)が混じっていますね。これは『便化』といって、小腸の内容物なのですが停滞時間が長いために便のようになりかかっている状況です。こうした内容物の変化が見られる場所は、閉塞の先端部分に近いという有力な所見になります。

実際、口側(上の方)の小腸と、下の方の小腸とでは内容物に違いがあります。内容物に気泡が混じり、便のようになっていることから、長時間停滞して『便化』していることが推測できるわけです。

この方のトランジションポイント(閉塞起点)は、実はパッと見でははっきりしません。

非常に難しいのですが、よく見ると終末回腸(しゅうまつかいちょう)に近いこのあたりの腸管壁が、少し厚くなっているのが分かります。

ここを境に腸管の径(太さ)が変わり、ここから口側がバーッと拡張しています。ここがトランジションポイントです。この症例では、クローズドループ(閉鎖係蹄)を作っているわけでも、はっきりした索状物で閉塞しているわけでもありません。トランジションポイントからなだらかに拡張が始まっているのが特徴で、これは『炎症によるイレウス』いわゆる回腸末端炎によるものと言えます。

回腸末端炎(終末回腸炎)というのは独立した疾患名ではなく、解剖学的な回腸末端という場所に炎症が起こった状態を指す総称のようなものです。ここに炎症が起こると、そこから口側の腸管がイレウス状態になっていきます。

こうした状態を引き起こす原因としては、クローン病などの炎症性腸疾患(IBD)が挙げられます。慢性的な炎症によって腸管自体が狭窄(きょうさく)し、その結果としてイレウスを来すわけです。

イレウスの原因は非常に多彩です。今回見てきたような絞扼(こうやく)性ヘルニア癒着炎症によるもののほかにも、食事(もちなど)による目詰まり、胆石、脱落した胆道ステント、アニサキス、魚の骨が刺さったことによる炎症など、バリエーションが豊富です。診断は非常に難しい領域ですが、循環障害を疑う『壁の厚さ』『周囲脂肪組織の浮腫』『腹水の有無』、そして『トランジションポイント』や『C型(ループ)の有無』をしっかり抑えることで、命に危険のあるイレウスに対して適切な対応を取ることが可能になります。

【質問①】

イレウスの造影CTにおける「動脈相」の必要性について

「イレウスの評価で造影CTを撮影する際、評価は門脈相の1相のみで良いのでしょうか?動脈相の必要性はありますか?」

【中山先生の回答】 「それに関してはですね、実はイレウスというか小腸の病気には、一つ大きな原因として『上腸間膜動脈(SMA)の解離や血栓』があります。

これらによってイレウスが引き起こされることがあるため、基本的には動脈相まで撮った方が良いと僕は考えています。動脈相を撮ることで、上腸間膜動脈内で『この部分だけ血流がない』とか『血栓で詰まっている』といった評価が、門脈相でするよりもずっと分かりやすくなります。ですので、診断をつけて患者さんの命に関わるかもしれないという目で見るならば、動脈相を撮るべきです。血流評価をしたいのに撮影を1個だけで済ますという話ではなく、やはり血流を評価するなら動脈相も門脈相も両方やった方がいい。原則として2相(動脈相・門脈相)撮るのが望ましいでしょう。

【質問②】

緊急手術対応イレウスにおける造影CT撮影と断面構成について

「緊急手術対応が必要なイレウスの場合、造影CTは何相の撮影が必要になりますか?」

【中山先生の回答】 「基本的には、2相(動脈相と門脈相)で良いのではないかと思います。

それぞれの役割を説明すると、動脈相は『腸管へ行く血流』を見ています。一方、門脈相というのは、腸管へ行った血液が肝臓に向かって戻ってくる血流を見ているものです。消化管で吸収されたものが肝臓に運ばれて代謝される流れが門脈相で分かるわけですね。動脈性の評価が動脈相であれば、門脈相は腸間膜静脈の血流評価にあたります。ですので、この2相があれば十分だと言えます。

もし、これに追加でもう1相(3相目:平衡相/遅延相)を入れるケースがあるとすれば、それは外傷後などで造影剤の血管外漏出(エクストラバゼーション)が疑われる場合です。動脈相で出血を確認し、それが時間の経過とともに広がっていくものなのか、あるいは単なる石灰化ではないかといった判断が必要な場合には、5分後や10分後にさらに1相(ディレイ)を追加することはあり得るでしょう。」

【追加の議論:断面構成(MPR)について】

質問者:「画像構成として、冠状断(コロナル像)は必要でしょうか?」

中山先生:「冠状断(コロナル)は絶対に作成してください。今のCTであれば必ず再構成できます。コロナル像は人間の視覚的に最も評価が脳に入ってきやすい断面であり、解剖学的な位置関係を把握するのに非常に適しています。特に腸管は解剖学的な評価が難しい臓器ですので、コロナル像は『あった方がいい』というレベルではなく、マスト(必須)だと考えています。」

質問者:「矢状断(サジタル像)はどうでしょうか?」

中山先生:「サジタル像については、あれば良いですが、マストとまでは言えないかなと思います。例えば、痩せている方でSMA症候群(上腸間膜動脈症候群)が疑われる際、大動脈からSMAが出る角度を評価する場合にはサジタル像が有効ですが、日常的なイレウス診断における優先順位としては、やはりアキシャル(横断像)とコロナル(冠状断像)の2つが基本になります。」

以上、イレウスの画像診断についてでした。
いかがだったでしょうか。非常に身近に潜む症例をピックアップし、解説いたしました。
また、皆さんのリクエストをいただき、勉強会でお会いできるのを楽しみにしております。
ありがとうございました!