第2回ウェブSTAT勉強会 ダイジェスト

記事の監修医師
【略歴】
熊本大学医学部卒業
【資格/役職】
放射線診断専門医 医学博士
株式会社ワイズ・リーディング 代表取締役兼CEO
医療法人社団 寿量会 熊本機能病院 画像診断センター長
熊本大学医学部 臨床教授
放射線技師の高石です。
第2回ウェブSTAT勉強会へご参加いただきました皆さま、誠にありがとうございました。
今回は、勉強会の内容をダイジェスト版としてご紹介していきたいと思います。
この勉強会は迅速な画像診断報告(STAT画像報告)に関連する臨床症例に焦点を当てた、勉強会になります。
今回の勉強会の内容は”くも膜下出血”を主題とした医療従事者向けのWeb勉強会の記事になります。救急現場におけるCTおよびMRI画像診断の重要性に焦点を当て、くも膜下出血の症例を紹介しています。診断のポイントとして読影のスピード感や、発症時期に応じた再出血・脳血管攣縮・水頭症といった合併症への警戒、特に若年者の発症では遺伝性疾患の可能性を考慮すべきであり、放射線技師による迅速な情報共有が患者の社会復帰を左右します。専門的な知見を交えつつ、命に関わる緊急疾患に対する早期発見と適切な治療介入の重要性を総括した内容です。
ぜひ、最後までご覧ください。
微細なサインを逃さない!!「頭部救急CT・MRI」
◆内因性くも膜下出血
• 患者情報
- 患者: 30代男性。
- 主訴: 受診前夜の夜8時頃から発生した激しい頭痛。
- 初期検査(単純CT)


右側頭葉周辺に広範囲な高吸収域(出血を示す白い影)くも膜下出血と診断されました。
精密検査(CTA)
- くも膜下出血には、外傷によるものもあれば、何もなく突然発症する内因性のものもあります。一番問題になるのは、この突然発症する内因性のくも膜下出血です。命を落とす危険がある非常に重大な病気なので、原因となる脳血管疾患をしっかり確認するために、CTA(CT血管撮影)まで行うべきです。 今回の症例では原因調査のためCTアンギオグラフィー(CTA)を実施したところ、右の中大脳動脈(MCA)領域に動脈瘤が確認されました。



治療の経過
- 血腫(血の塊)の状況から、今回は右側の動脈瘤が破裂源であると判断されました。
- まず緊急性の高い右側の動脈瘤に対してクリッピング術が行われ、破裂箇所を塞ぐ処置が完了しました。

左側の大きな動脈瘤については、今後時期を見て待機的に治療を行う方針とされています。
背景要因
- 遺伝性疾患の疑い: 若年者で多発性動脈瘤が見られる場合、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)という遺伝性の腎疾患が背景にある可能性が示唆されました。この疾患は脳動脈瘤を高頻度で合併します。腎臓に多数の嚢胞がある所見を偶然見つけた際、放射線科医が「脳動脈瘤のチェック(MRA)」を推奨するコメントを添えることも重要と考えます。
◆症例2:外因性くも膜下出血
症例の経過と画像所見
- 受診の経緯: 施設内の浴室で転倒し、右後頭部に腫脹(たんこぶ)が認められたため救急受診されました。
- 初期CTの困難さ: 通常のCT画像では、はっきりとした出血を捉えるのが難しいほど微細な所見でした。しかし、ボリュームデータ(薄いスライス厚)を用いた詳細な断面を作成して確認したところ、右大脳半球の脳溝に沿って2箇所のわずかな高吸収域(白い影)が認められました。

確定診断:この微細な所見に基づき、放射線科医によって「外傷性くも膜下出血」が疑われると判断し翌日フォローアップCTの撮影を推奨され翌日に再び頭部CTを撮影したところ高吸収域が消失していたことから外傷性くも膜下出血であったと診断が下されました。
フォローアップCTによる変化
この症例で非常に重要なのは、翌日のフォローアップCTで影が消失していたという事実です。
- 出血か石灰化か: 画像上の白い影が「出血」なのか「石灰化」なのか判断に迷うことがありますが、石灰化であれば時間が経っても消えることはありません。
- 診断のストーリー: 翌日に消失していたということは、わずかな出血が時間の経過とともに吸収されたことを意味しており、これによって初日の所見が確かに急性期の出血であったことが裏付けられました。
- 教訓: 1回の検査では判断が難しいケースがあるため、疑わしい場合には後日フォローアップのCTを撮影することが、診断を確定させる上で極めて重要です。
◆内因性と外傷性の違い、動脈瘤破裂の危険性について
くも膜下出血の分類と原因
くも膜下出血には、大きく分けて内因性と外因性(外傷性)の2種類があります。
〇内因性くも膜下出血: 一般的に「くも膜下出血」と言えばこちらを指すことが多く、内因性の場合約85%が脳動脈瘤の破裂を原因とします。その他の原因としては、脳動静脈奇形(AVM)、もやもや病、血管炎などが挙げられます。



〇外因性(外傷性)くも膜下出血: 脳動脈瘤の破裂による「内因性」のくも膜下出血(動脈性)とは異なり、外傷性の場合は脳表面の静脈(皮質静脈)が破綻して起こることが多いのが特徴です。そのため、出血の範囲が狭く、量も少なくなる傾向があります。

対側損傷(コントレクープ)への注意: 脳は頭蓋骨の中で浮いている構造であるため、打った場所(今回の場合は右後頭部)だけでなく、その衝撃で脳が揺れて反対側がぶつかり、反対側の脳(左前頭葉など)にも損傷が起こることがあります。これを「コントレクープ・インジャリー」と呼び、画像診断の際には打撲部位の反対側にも視線を動かす必要があります。
- クープ損傷(直撃損傷): 外力が直接働いた部位の損傷。
- コントレクープ損傷(対側損傷): 衝撃で脳が揺れ、反対側の頭蓋骨にぶつかることで起こる損傷。 例えば、後頭部を打った際に前頭葉に損傷が起こる可能性があり、診断時には衝撃部位の反対側にも出血がないか注意深く確認する必要があります。対側までダメージが及ぶのは、骨折や脳挫傷を伴うような非常に強い力が加わった場合が多いです。


◆臨床的特徴と症状
内因性の動脈瘤破裂によるくも膜下出血は、出血が多く生命の危険に直結する重篤な事態を招きやすいのが特徴です。症状としては、「バットで殴られたような突然の激痛」と表現される激しい頭痛がいきなり発生し、それが持続します。

◆発症後の3つの重要なピークポイント
動脈瘤破裂によるくも膜下出血が起こった際、注意すべき3つの管理上のポイントがあります。
- 再出血(発症後24時間以内): 最初に出血した動脈瘤が再び破れることで、非常に死亡率が高い危険な時期です。
- 脳血管攣縮(72時間〜2週間): 出血をきっかけに血管が痙攣して縮む現象です。これにより血管が狭まり、脳梗塞を引き起こすリスクがあります。
- 正常圧水頭症(数週間後〜): 慢性期に入り、脳脊髄液の流れが障害されることで脳室が拡張する現象です。

◆診断と画像検査の選択
時期や目的に応じて、適切な画像検査(モダリティ)を選択することが重要です。
くも膜下出血の疑いがある緊急時には、MRAよりもCTA(CT血管造影)が優先されます。
- 空間分解能の高さ: 動脈瘤のネックの広さやドームのサイズ(3〜4mm単位)を正確に計測するのに適しています。
- MRAの弱点: 形状のボケが出やすく、正確なサイズの把握が難しい場合があります。
- 感度の低下: 発症から時間が経過すると診断感度が下がるため、迅速なCT検査が必要です。
頭部CT: 急性期の出血に対して非常に感度が高く、第一選択となります。典型例では、脳底部の脳槽が白く写る「五角形(ペンタゴン)」や「ヒトデ型」の所見が見られます。また、CTは出血を否定するためにも重要な役割を果たします。


頭部MRI: 血管攣縮による脳梗塞の疑いや、水頭症の評価を行う場合には、CTよりもMRIの方が適しています。
なお、激しい頭痛があるにもかかわらずCTやMRI(FLAIR像)で出血が確認できない場合、教科書的には腰椎穿刺(ルンバール)による髄液検査が推奨されますが、近年の機器性能向上により実施される事例は少なくなっています。

その他、脳動脈瘤の検査や治療を目的として血管造影検査やIVR(画像化治療インターベンショナルジオグラフィ)が施術されることもあります。


◆脳動脈瘤の多発性と検索の重要性
脳動脈瘤は単発とは限らず、多発することが珍しくありません。1つ見つけただけで満足せず、中大脳動脈(MCA)の両側、前大脳動脈(ACA)、脳底動脈や椎骨動脈など、ウィリス動脈輪のどこにでもできる可能性があるという意識を持つことが重要です。これは、高血圧や血管の脆弱性、解剖学的構造といった要因が背景にあるためです。
「1/3ルール」と予後の厳しさ
くも膜下出血の予後は非常に厳しく、「1/3ルール」という統計的な指標があります。
- 1/3は死亡する: 命に関わる重得な病気です。
- 1/3は後遺症を残す: 何らかの障害が残り、生活に支障をきたします。
- 1/3は社会復帰できる: 後遺症なく元の生活に戻れます。 患者の約7割が死亡または後遺症に見舞われるため、人生を大きく変えてしまう極めて危険な病気です。

◆医療現場における迅速な連携(スタット)
患者を「社会復帰できる1/3」に入れるためには、発症から治療までの時間を極限まで短縮することが不可欠です。

- 迅速な報告(STAT報告)の重要性:くも膜下出血は3分の1が死亡し、3分の1に後遺症が残る非常に重篤な疾患です。診断後、正式な読影レポートを待たずに現場から即座に「スタット(至急)」で報告し、最短時間で治療(再出血の防止など)に繋げることが、患者の社会復帰率を高める鍵となります。
- 技師の役割: 画像を撮影した技師は、放射線科医のレポートを待つのではなく、出血の疑いを持った瞬間に「スタット(至急)」で医師に伝えるべきです。
- 迷わず動く: たとえ後で間違いだと分かっても、医師にその可能性を視野に入れてもらうということが重要です。迅速に次の治療ステップ(クリッピング術やコイリング術など)へ繋げることが、失われる時間を救うことになります。
以上、第2回ウェブスタの症例です。
今回提示した症例は、画像診断の観点からは比較的「典型的」であり、CTを撮れば出血の有無を判断しやすいものでした。経験を積まれた方にとっては、見慣れた画像だったかもしれません。
しかし、私たちが最も重視すべきは、その先にあります。くも膜下出血には「1/3ルール」という言葉があります。3人に1人が亡くなり、3人に1人が後遺症を残し、社会復帰できるのは残りの3人に1人のみという厳しい現実です。患者さんをこの「社会復帰」の枠に一人でも多く入れてあげるためには、「いかに早く治療に繋げるか」、そこだけが勝負となります。
特に発症24時間以内の再出血は極めて死亡率が高く、一刻を争います。検査の最前線に立つ皆さんが、正式な読影レポートが完成するのを待たず、異常に気づいた瞬間に声を上げる。その「スタット画像報告」こそが、患者さんの人生を大きく変える力があると考えます。
今回の勉強会が、典型的な症例の中にある「救急の重み」を再認識する機会となれば幸いです。今後も、迅速な対応で一人でも多くの命を救うため、皆さんと共に学びを深められるような勉強会を継続して実施していきたいと思います。
ご覧いただきありがとうございました。