第12回ウェブラジエーション勉強会 ダイジェスト Vol.2

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記事の監修医師

中山 善晴

【略歴】
熊本大学医学部卒業

【資格/役職】
放射線診断専門医 医学博士
株式会社ワイズ・リーディング 代表取締役兼CEO
医療法人社団 寿量会 熊本機能病院 画像診断センター長
熊本大学医学部 臨床教授

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第12回ウェブラジエーション勉強会の内容をダイジェスト版としてご紹介していきたいと思います。

Vol.2―急性期脳実質病変 虚血性変化と炎症性病態の鑑別 ―

1. 症例の概要と来院の経緯

  • 患者: 80代 男性
  • 来院のきっかけ: ○月に卓球をしている際、右手が動かしにくくなったため、夜間に近隣病院を受診。翌朝同院で頭部CTを受けたところ脳梗塞が疑われ、MRI設備のある当院を受診しました。
  • 来院時の様子: 症状がありながらも自車を5分ほど運転して来院するほど意識や体力が保たれており、当初はMRI撮影を拒否される場面もありました。
  • 既往・前打診歴: 発症の約2週間前にも畑で倒れて救急搬送された履歴があり、その際は「熱中症」と診断され、意識がしっかりしていたため本人が検査を拒否して帰宅していました。

2. 画像診断所見(CTおよびMRI各シーケンス)

頭部CT: 右側頭葉に広範囲な低吸収域を認めました。
  • DWI(拡散強調画像): CTでの広範囲な低吸収域に対してDWIでの高信号変化は乏しく、脳表にわずかな高信号を認める程度でした。
  • FLAIR(2D / 3D): 血管性浮腫を捉え、広範囲に高信号を示しました。3D-FLAIRでは脳実質病変の検出感度が高く、詳細に評価されました。
  • T2*: 基底核などに微小な出血やヘモジデリン沈着痕が確認されました。
  • T1: 基底核に高信号を認めました。
  • MRA: 右中胸蓋動脈を含め主要血管の描出は良好であり、動脈硬化や顕著な血管閉塞は見られませんでした。

3. 鑑別診断と臨床像・画像の乖離(ミスマッチ)

画像の非典型性: 通常の急性期塞栓性脳梗塞であればDWIで強い高信号を示すはずですが、本症例では高信号が限局的であったため、当初はウイルス性脳炎などの炎症性病態も鑑別として挙げられました。

臨床症状と解剖学的局在の不一致:
右手の動きにくさ(左半球病変が疑われる症状)を主張しているのに対し、画像上の病変は右半球(右側頭葉)に存在しており、解剖学的に一致しませんでした。

確定診断:
その後の紹介先病院での精査(心電図・心エコー等)により心房細動(Af)が検出され、髄液検査等で感染症が否定されたことから、最終的に心原性脳塞栓症と診断されました。

4. 病態メカニズムの考察(「空白の2週間」と自然再開通)

「空白の2週間」の真実: 2週間前に「熱中症疑い」で倒れた際が、実際の塞栓性脳梗塞の発症タイミングであったと推測されます。

自然再開通(Recanalization):
心臓からの栓子により一度血管が閉塞して倒れたものの、早期に血栓が溶けて自然再開通が起こったため、重篤な神経脱落症状や致死的な脳組織壊死を免れたと考えられます。

DWI高信号の消失とFLAIR高信号: 
時間経過とともにDWI上の細胞性浮腫(拡散制限)が消退・緩和する一方で、FLAIRで捉えられる血管性浮腫やT2*での微小出血痕が2週間後に顕在化した状態を捉えていたと解釈されます。

右手症状の要因について: 

左半球に病変は存在せず、認知症傾向や前頭葉萎縮を背景とした本人の錯覚・認識違いの可能性、あるいは心房細動に伴う微小栓子が右上肢動脈へ一時的に飛んだ可能性なども考えられました。

まとめ:

 心源性脳塞栓症において自然再開通が起こると、一般的な急性期画像とは異なり、臨床症状と画像所見が大きく乖離するケースが存在します。

時間軸と画像シーケンス(DWI、FLAIR、T2*)の総合的解釈が重要となります。

今回の症例は、「塞栓性脳梗塞=突発的で重篤なマヒ」という固定観念を覆す、非常に教訓深いケースでした。

心源性脳塞栓でも、自然再開通が起きると症状が軽微で済むことがある

DWI・FLAIR・T2*といった各MRIシーケンスの時間経過(タイムライン)による変化を統合して読影することが不可欠である。

「画像上の異常」と「本人の訴え」が一致しないときこそ、背景にある時間軸(エピソード)に耳を傾けることが重要なのだと実感させられました。