【MRI装置更新】Philips社装置とSiemens社装置の違い

記事の監修医師
【略歴】
熊本大学医学部卒業
【資格/役職】
放射線診断専門医 医学博士
株式会社ワイズ・リーディング 代表取締役兼CEO
医療法人社団 寿量会 熊本機能病院 画像診断センター長
熊本大学医学部 臨床教授
装置導入の洗礼!操作画面と「名前・ルール」の違い
右手が彷徨う?「異文化衝突」から始まった新体制
「……あれ? 患者さんの登録ボタン、どこだっけ?」
2026年9月、当院のMRI検査室に待望の新装置が搬入されました。
これまで当院では、2016年に導入したPhilips社製 Ingenia 3.0Tと、2008年に導入したPhilips社製 Achieva 1.5Tの2台体制でMRI検査を行ってきました。
長年使い続けてきたIngeniaやAchievaの操作感は、もはや自分の手の延長のようなもの。画面を細かく確認しなくても、指先が自然と目的のボタンへ向かうほど、操作が身体に染み付いています。
そんな約16年連れ添ったAchievaに別れを告げ、新たに仲間入りしたのが、Siemens社製 MAGNETOM Altea 1.5Tです。
「最新の1.5T装置だ! 楽しみだな!」
期待に胸を膨らませてコンソール(操作卓)の前に座った技師たちを待っていたのは、想像以上のカルチャーショックでした。
画面のレイアウト、用語の表記、操作の手順まで、これまで使っていたPhilipsとは大きく異なります。
例えるなら、長年iPhoneを使いこなしてきた人が、ある日突然Androidの最新機種を渡され、「さあ、今すぐ操作してください!」と言われたような感覚です。
操作画面の前でマウスを持ったまま一瞬フリーズする技師。
「VISTA、VISTA……あっ、SiemensだからSPACEか!」
そんな独り言が聞こえてくることもありました。
今回は、PhilipsとSiemensという2大メーカーの装置を併用することで見えてきた、操作画面や用語、設定ルールの違いについて、実際の現場で起きたエピソードを交えながら紹介します。
第一の洗礼:「身長を入力してください」に阻まれる検査開始
最初に戸惑ったのは、検査準備の基本となる患者情報の入力でした。
Philips(Ingenia)の場合、患者情報として主に必要なのは「ID・氏名・性別・生年月日・体重」です。体重以外の情報はMWM(モダリティワークリスト管理)機能によって自動入力されるため、技師が手入力する場面はほとんどありません。
体重はSAR(電磁波の比吸収率)の計算にも関わる重要な情報ですが、身長については、入力されていなくても検査を進められる運用に慣れていました。
ところが、Siemens(Altea)では事情が違います。
患者情報を読み込み、体重を入力して、いざ検査を開始しようとすると……。
画面にポップアップが表示され、先に進めません。
「身長が入力されていません」
「えっ、身長も必須なの!?」
コンソールの前で思わず声が出る技師。
結局、患者さんに「失礼ですが、身長を教えていただけますか?」と確認し、その場で入力することになりました。
Siemensでは、患者の体格情報をより細かく扱う設計となっており、SARの計算や体格に応じた撮像条件の設定などにも関係します。こうした情報入力のルールも、メーカーによって違いがあることを実感しました。
今では、Siemensで検査を始める前のルーティンとして、「体重よし! 身長よし!」と確認する技師の姿も。
新しい装置に慣れるまでは、検査を始める前の確認事項が一つ増えたようです。
第二の洗礼:大文字vs小文字、そして「謎解き」のようなパラメータ表記
操作に慣れようと画面を見ていると、次に立ちはだかったのが「用語の違い」です。
まず、見た目にも分かりやすい違いが、撮像シーケンス名の大文字・小文字の違いです。
Philipsのシーケンス名は、基本的に大文字表記。
- Philips:FFE(Gradient Echo)、SE(Spin Echo)、VISTA(3D TSE)
一方、Siemensでは小文字表記が多く見られます。
- Siemens:flash(Gradient Echo)、se(Spin Echo)、space(3D TSE)
コンソールに並ぶシーケンス名を見て、「Siemensはなんだか控えめな表記だな……」と感じるのも、導入当初ならではのエピソードです。
しかし、本当に戸惑うのは表記の違いだけではありません。
同じような撮影法や機能でも、メーカーによって名称が異なることです。
代表的なものを比較してみましょう。
| 撮影法・機能 | Philips社(Ingenia 3.0T) | Siemens社(MAGNETOM Altea 1.5T) |
| 3D等方性T2/T1強調画像 | VISTA | space |
| 脂肪抑制(周波数選択) | SPIR / SPAIR | FatSat / SPAIR |
| パラレルイメージング | SENSE | iPAT (GRAPPA / SENSE) |
| 体動補正技術 | MultiVane | FREEZEIT / Radial |
例えば、膝や肩の精密検査で3DのT2強調画像を撮影したい場合、Philipsを使い慣れた技師なら、まずプロトコルから「VISTA」を探します。
しかし、Siemensの画面に「VISTA」という名称はありません。
そこで頭の中で「VISTA=SPACE」と変換し、目的のシーケンスを探す必要があります。
これまで当たり前のように使っていた名称が通用しないため、最初は戸惑うことも少なくありません。
さらに、撮像条件を調整する際のパラメータ表記にも違いがあります。
例えば、信号の加算回数を変更したい場合、Philipsでは「NSA(Number of Signal Averages)」という項目を探しますが、Siemensでは「Averages」と表記されています。
どちらも同じような設定を行う項目ですが、名称が異なるため、慣れるまでは画面の中で探し回ることになります。
同じMRI検査でも、メーカーが変われば操作画面も専門用語も変わる。まるで英語圏からフランス語圏に引っ越してきたような感覚です。
おわりに:違和感の先に見えてきた「メーカーごとの設計美学」
新装置の導入からしばらくが経ち、当初は戸惑っていた技師たちも、今ではPhilipsとSiemensの2台を少しずつ使い分けられるようになってきました。
実際に両メーカーの装置を使ってみると、それぞれの特徴や設計思想の違いも見えてきます。
Philips(Ingenia)は、パラメータの設定自由度が高く、GUI(操作画面)も視覚的で、直感的に操作しやすい印象があります。
一方、Siemens(Altea)は、患者情報の入力段階から安全性や自動化を意識した仕組みが組み込まれており、システム上のルールに沿って検査を進める設計が特徴的です。
最初は不便に感じていた違いも、使い続けるうちに、それぞれのメーカーが大切にしている考え方や工夫の違いとして捉えられるようになりました。
「ルールが違う」ということは、裏を返せば、それぞれのメーカーが追求する理想のMRI検査へのアプローチが違うということ。
同じMRIというモダリティでも、メーカーが変われば、検査の進め方や技師の動き方まで変わる。今回の装置更新は、そんな当たり前のようでいて、改めて気付かされる経験となりました。
次回は、新しいSiemens装置に慣れてきた私たちが、さらに驚かされた**「驚きの時短と静寂性!日々の検査を快適にする機能編」**をお届けします。
最新Siemens装置がもたらした「検査時間の短縮」と「静かすぎるガントリ」の衝撃とは?
ぜひ次回もお楽しみに!
